研究課題/領域番号 |
16K12389
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研究機関 | 淑徳大学短期大学部 |
研究代表者 |
前 正七生 淑徳大学短期大学部, その他部局等, 教授 (70337864)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 発達支援 / 保育者養成 / 被災地支援 / 保護者支援 / 要請教育 |
研究実績の概要 |
いわき市内の保育所、幼稚園、子育て広場等、障碍児施設など十三園の保育士、教諭、支援担当者らから直接ヒアリングを行った。本年度はとりわけいわき市内で震災直後から避難地域からの移転者、その保護者と乳幼児の支援を行ってきたNPO法人の代表と看護師(DMATの看護師でもある)より、震災後の保護者と乳幼児、特に気になる子の顕在化や直面する問題の推移に関しての概略、大きな流れについて聞き取った。①震災後の気になる子の増加は単なる「イメージ」ではないこと、②避難地区からの流入、人口移動と生活・親の心身の安定とそれは関係あること、③現実的に対応している臨床的事例、震災以前に比べて増加もしくは新規に生じてきた課題等、詳細にヒアリングのデータを集めることができた。また、支援している側の苦悩と負担の増加、現実として対応している案件の数字なども収集できた。 発表、論文等の成果としては数字やヒアリングデータの可視化、文章化が観まだ十分とは言えず内容の精査が必要でもあるため、次年度の論文化・活字化にも継続するが、「「主体性」と思考を育む震災後の保育士養成への試み―養成課程における科目編成とルーブリックの可能性―」橋浦孝明との共著(いわき短期大学紀要)、「幼小連携を意識した新たな教育課程に関する現状と課題 -養成校からみたコンピテンシーベースの新学力・子ども観による評価可能性―」(淑徳大学短期大学部 紀要 第五十六号)の二つの論文において、震災後の保育士養成の要であると(筆者が)考えてきた「主体・能動性」「思考」をより機能させる地域の保育士養成カリキュラムの編成と現実に合わせた教授内容の理論化について、ルーブリックやパフォーマンス評価という新規の評価構築の視点からその可能性について言及した。(同内容は全国保育士養成協議会第55回研究大会にて発表)地域の変容が子どもたちに及ぼすであろう影響も見えてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初、15園(人)のヒアリング予定であったが、本年度で13園(人)のヒアリングを実施できた。予定より2園少ないが内容的には補足・追加の聞き取りも行うことができ、充実した内容となっている。また、想定外に深い内容のヒアリングができ、また当初の仮説を相当のレベルと範囲で裏付けるような内容、数字、個別の事例が出てきたことで次年度の研究の具体的方向性が明確となった。 敢えて言えば、ヒアリング内容の活字化が未達成の部分もあり、該当部分のテキスト化を速やかに進めることが次年度の第一の課題でもあるが、 ①震災直後からの幼児野の発達・保護者が抱える不安に関する問題の変化・推移、②現時点で実際に起こっている事象・事例、③コミュニティの変化とそれに伴う子ども・保護者の不安の顕在化という予想していた事案(仮設)もヒアリングとNPO法人から提供された利用実数等のデータから整理できる状況にある。 また、今年度ヒアリングを行ったいわき市内の保育所、幼稚園、障碍児通園施設の教職員、保育士の語りからも復興の名のもとに薄れゆくものと相対的に浸透しつつある発達や育ちの面における事後の影響、震災後に不安視されていた事案の顕在化と潜在化など、当初の予想以上に具体的で、細かい事例を聞き取ることもでき、新たな「語り」のデータとして蓄積できている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度、実施した13園のヒアリング内容を可視化、テキスト化することが次年度の初発の課題でもあるが、想定以上に深当初の仮説を相当のレベルと範囲で裏付けるような内容、個別の事例が出てきたことで以下の点において、具体的に研究を進める。 ①震災直後からの幼児野の発達・保護者が抱える不安に関する問題の変化・推移を総合的、俯瞰的に資料や数字をもとに整理していく。 ②現時点で実際に起こっている事象・事例について、初年度予定の2件に加え15園の保育園、幼稚園、障碍児通園施設などの保育者などへのヒアリングを継続する。 ③コミュニティの変化とそれに伴う子ども・保護者の不安の顕在化という予想していた事案(仮設)も保育経験のある保護者や特別支援学校の元教諭から直接のヒアリングといわき市内で震災直後から保護者や子どものサポート・支援を行ってきたNPO法人から提供していただいた利用実数等のデータ等の数字、および特殊な相談・対応事例等のケースと併せてデータを収集し、震災後の状況に潜在した発達や子育てに影響を与える要因にかかわる資料を蓄積していく。 ①~③の実施においては本研究の枠組みである「震災後」「いわき市の」ナラティブを形成するという視点を欠くことなく、ヒアリングに取り組む。一人の人間として向き合い、復興の同士としての共感と協働の姿勢の姿勢で臨む。また、保育者養成教育学会や学内外の紀要に可視化したヒアリングデータや資料を論文化等して発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度でもあり、ヒアリングの予備調査、事前のヒアリングを入念に行ったため文献等、必要な資料の購入と領収・納品書の処理が年度末近くにずれ込んだ。そのため10万程の物品や消耗品処理が次年度に繰り越しとなっている。(但し、当初の使用額とはほぼ変わっておらず、学内教育研究費使用との関係や比率もあって、物品の納品、領収書等の到着が3月までずれ込んだことによるため、次年度繰り越しでの処理はすでに終わっている) 初年次故の初動が少し遅くなったこと、ヒアリングの過程で想定外の「重要な」深いヒアリングの必要な案件が生じたこともあり、二度三度同じ園や保育士にヒアリングを行うこともでてきた。又、震災後から継続的に保護者、障碍児者の支援を行っている市内NPO法人の相談対応事例についても何度も重ねたヒアリングを行ったため、当初の予定よりも二園のヒアリングが叶わなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度繰り越しとなった部分である資料・文献、消耗品等に関しては既に納品書、領収書等もそろえて次年度処理として計上されることになっている。また、今年度は前半期に資料と参考文献をまとめて購入の予定であり、物品費・消耗品費に関しては早い時期の消耗品、物品費の使用が可能である。 また、旅費や謝金に関しては、前年度の残りのヒアリング2件に加え、新規ヒアリングにおいても前年の6回以上(7、8回)予定しており、前年度の継続ヒアリング箇所を追加しての経費使用となるため、前年度と同等かそれ以上の使用額が見込める。 場合によってはヒアリングデータの起こし作業に関するアルバイト等の人件費も必要となる可能性があるが、でき得る限り代表者自身の入力による可視化・データ作成を行いたい。
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