研究課題/領域番号 |
16K12389
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研究機関 | 淑徳大学短期大学部 |
研究代表者 |
前 正七生 淑徳大学短期大学部, その他部局等, 教授 (70337864)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 東日本大震災 / 語り / 発達支援 / 保護者支援 |
研究実績の概要 |
29年度は、地域のNPO子育てサポートの継続ヒアリング、市内の保育所、発達支援に従事する保育士と市内の障がい児・者の福祉施設に勤務する職員や支援員から追加、補足的なヒアリングから始め8名から聞き取りを行った。そこでは①震災直後5年までの間と6年目までの間に生じてきた子どもの心理的安定面における変化、②震災直後からコミュニティや生活基盤の変化に伴う保護者の不安、③こどもと保護者を支援する側としての保育士、施設職員等、対人支援の専門職の職務内容の変化と推移に関して新規の状況、継続的な課題と言える内容を聴き取ることができた。(上記内容については淑徳大学短期大学部紀要にて2編投稿、発表)例えば、震災後の5年間で放射線等見えない影響や後遺症を気にかけ意識する保護者、生活基盤の変容と親戚や知人(場合によっては配偶者・親子)の関係性の変化が積み重なり、保護者の方の心身面の不調や負担が顕在化してきたこと、②震災直後に誕生した子どもたちが小学生に上がる中で、不安定な家庭環境に転園・引越し等を余儀なくされたことの影響からか「落ち着きのない」子ども、思い切り遊べない子どもの姿などが見られるようになってきたこと、③復興と再生、絆という言葉を支えに支援に取り組んできた保育士・職員等支援する側のなかで、業務の集中や偏りと相俟って、一時的なバーンアウトのような(事態の改善がみられるところと深刻化していくこととの狭間で)気力低下もヒアリングの内容に表れている。同時に、震災後半年で避難所から始まった地域子育てサポートの取り組みの実際とスタッフの業務内容、利用者の実態などから新規の支援の展開として多世代型(障がい児、親支援、高齢者含む)交流と支援広場の機能・需要の拡大と役割の変化についても、地域の子育てと親支援の実態として語りによる調査を進め、7年目を迎え従来とは異なる子どもの心身の変化も明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定としての保育所、幼稚園、障がい児等の施設、子育てサポートに実際に勤める保育士や支援員15名近くからこの数年の、子育て支援の実際の変化と子どもの様子、保護者の不安や発達上の悩みなどについて、たくさんの従来とは異なる「語り」を集めることができている。 また、新規の課題、新しい子どもの変化に慎重に向きあっている市内NPOの子育てサポートによる「多世代交流の広場」の運営と実際から、震災後の6年間の対応事例や現時点での利用状況なども、事例を含めて聞き取ることができており、最終年度にクライアントとしての保護者の数名からヒアリングを行うということも想定されてきている。 施設の職員からも震災後の利用児・者の実際と状況、職員の対応と保護者への相談業務や不安の軽減、施設の維持と復興、再生に関しても職員不足の臨床の現況と併せて、ヒアリングなどを進める中で、その実際を徐々に整理していく段階に進んでいる。 現時点で過去の推移と課題、保護者および子どもの実際についても整理されたヒアリングがすすんでおり、支援者側からみた個別の事例や保護者自身の経験を併せることで、本研究の目的である「震災後の発達支援・保護者支援の現状と課題」とこの数年で浮上してきた新規の課題についても、医療的なケアや乳幼児健診の場で近年特にみられるようになってきた傾向や子どもの発達的な変化についても少しずつ明らかにできる目途が立っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、特別支援学校、小学校支援級の元教諭、障がい児・者施設の保育士、職員からこの7年間の子ども・保護者支援の内容や状況の推移・変化について、保護者の内面と仕事への責任感とその使命に関する本音の部分についても「語り」として聴き取る予定である。 現時点でも、小学校の支援級、幼稚園の補助教員の方々からも現状については少しずつ聞くことができ始めているが、前年度は特別支援学校の先生からは予定の変更、調整等もあって未だ予備調査にとどまっており、最終年度の初めにまとまったヒアリングを行う予定である。同時に当初の予定通り残り15名のヒアリングも実施し市内関係者40名近い「語り」を収集する予定である。 また、市内で多様かつ複雑、深刻な案件が多いと言われる多世代広場の取り組みについても、アプローチ(個別と集団のヒアリング)を重ね、職員の職務の内容、実際にかかわっている保護者と子どもへの支援の実態とそのために必要なことを、実際の現場の声から明らかにしていく。 ここまでのヒアリングの中でコミュニティの変容と生活の変化に伴う多世代交流の場の機能が求められていること、厚生労働省が模索していると言われる次世代型「多世代広場事業」と地域で果たす役割の可能性についても利用者と職員、保育士と保護者などからの聞き取りを行い明らかにしていく。また、ここまでの聴き取りの成果と個々の事例、「語り」の詳細について学内紀要、大学紀要、保育者養成研究等に発表・投稿し最終年度のまとめとして報告書作成につなげていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、20園以上の聞き取りを行う予定であったが、各園の担当職員、特にNPO法人の子育て広場、保護者支援についてのヒアリングを行う中で、重要な事項や更に深く聞き取りを行う必要のある内容(特に新規の課題についての追加ヒアリングなど)が生じ、同園に複数回のヒアリングを行ったことで一園、一施設の謝金が減額されたことが一つの要因である(何回も受け取るのは遠慮したいとの申し出もあった)。 同時に特別支援学校や市立保育園、小学校の特別支援級の先生方へヒアリングが予備調査となったこと、予定よりも少なくなったことも要因である。(支援学校の先生方との調整が不調に終わったことや公立、市立のため聞き取りを控えたいとの申し出も僅かながら生じた) 最終年度の聞き取りの成果の充実のためにも福祉施設・保育所、子育て支援の場だけでない、学校教育における発達支援の実際は、報告と調査研究の内容として必須でもあるので夏場から早い時期でのヒアリングを実施し、前年度出来なかった対象の再実施と退職者も含めた補足的な聴き取りも行うことで次年度の使用に充当したいと考えており、最終年度の報告書作成にむけて、報告書の印刷費や入力業務の人件費にも充当する予定である。
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