研究課題/領域番号 |
16K12395
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
谷口 哲也 金沢工業大学, 基礎教育部, 講師 (90625500)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 行列式 / 固有値分布 / 半円則 / 実験計画法 / discrepancy / d-efficiency |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,成分が±1である n次正方行列で行列式の値が大きくなるものを構成すること,および値が大きくなる理由の解明である.このような行列は実験計画法において実験を効率よく行うために用いられる.本研究では,構成方法として円分体の相対類数の行列式公式を提案している.このような性質をもつ行列の特徴づけ,行列の具体的構成を目標としている.このような目的意識のもとで,次のような結果が得られている.なお,講演発表は3件行った(北陸数論セミナー,日本応用数理学会,九州代数的整数論2017). 1.成分が0-1タイプ,±1のタイプ Demjanenko 行列(Hazama の1990年の論文)について数値実験を行い,いずれも「行列式の値が極端に大きい」という観察結果を得られた.比較対象として,ランダムな0-1成分・±1成分の対称・非対称行列(計4種)を選び,それぞれの行列式値の度数分布の中でDemjanenko行列式値を位置づけた.その結果から±1成分のDemjanenko行列の方が,Hadamardの上界に近い値を取ることが確認できた. 2.±1成分のDemjanenko行列は実対称行列であり,固有値がすべて実数値であるがWeegnerの半円則から大きく外れた分布をするという観察結果を得た.分析によりDemjanenko行列式の値が極端に大きくなる現象と固有値の分布状況の関係は見いだせたが,固有値分布のゆがみの原因は依然未解明である.また,Demjanenko行列の固有値と一般ベルヌーイ数の間の関係は,「複素共役の積」といった単純な関係ではないことが確認できている.試験的にBLAS・LAPACKを用いて固有値計算の数値実験を行ったところ,当該の行列に関しては,2万次程度の行列の固有値計算が実用的な時間で実行可能であることは確認している.今後の数値実験の参考とする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値実験は順調に進み,本研究課題開始前よりも広い範囲の数値実験データの蓄積が行えたこと,新しく数値実験した範囲でも従前の計算範囲での結果と同様に,問題としている行列式の値の大きさが極度に大きいという性質を持つことの確認ができたこと,行列式の値の大きさと固有値分布と関連付けて理解するという視点が生まれたこと,もともと想定していなかった Low Discrepancy Sequence からの視点を追求するという目標が生まれたこと,以上の事から,研究は順調に進んでいると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は,成分が±1であるn次正方行列で行列式の値が大きくなるものを構成すること,および値が大きくなる理由の解明であるが,今後は,数値実験メント理論面についてそれぞれ次のことを行いたい. 数値実験面では,Demjanenko行列式以外のタイプの行列式公式に関する数値実験に注力すること,また当初の予定よりもより大規模なデータを取得するため,BLASやLAPACKも援用する,GPUの活用などにより,高速に大量のデータを蓄積して統計的な分析を行うことを進めたい. 理論面では行列式の確率分布,実対称行列の固有値分布の中で当該の行列式の値の位置づけを行いたい.当該行列式の値は具体的に計算できるが,現在比較対象としている「ランダムな成分の行列式」「Hadamard行列」以外の比較対象を見出すこと,たとえば Discrepancy と行列式の値の大きさ(あるいはd-efficiency)との関連を調査し,より明確な位置づけを行い,「相対類数由来の行列式の値が極度に大きい現象」の原因究明に当たる方針である.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度における考察により,本研究における数値実験の計算において,当初の予定よりも大規模なデータを見る必要性が生じ,大規模なデータを格納,処理することが必要であるとの見込みができた.また試験的に行う小規模な数値実験であれば手持ちの計算機でも可能であることから,計算機の購入を次年度に持ち越すことにしたため.
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次年度使用額の使用計画 |
必要となる計算機の仕様,特にストレージの大きさを見つもり,平成29年5月中をめどに発注し,数値データの確保に臨む.
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