研究課題/領域番号 |
16K12395
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
谷口 哲也 金沢工業大学, 基礎教育部, 講師 (90625500)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 行列式 / 漸近的挙動 / 固有値分布 / 半円則 / 実験計画法 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,成分が±1である n次正方行列で行列式の値が大きくなるものを構成すること,および値が大きくなる理由の解明である.このような行列は実験計画法において実験を効率よく行うために用いられる.本研究では,構成方法として円分体の相対類数の行列式公式を提案すること,このような性質をもつ行列の特徴づけることを目標としている.このような目的意識のもとで,下記の結果が得られている.なお,本研究に直接関係する講演発表は6件行った(北陸数論セミナー2回,香川セミナー1回,北陸数論研究集会1回,日本応用数理学会1回,九大代数学セミナー1回). . 1.素数p分体に関して,0-1成分・±1成分の Demjanenko 行列(Hazama の1990年の論文)に関する数値実験により「Demjanenko行列式の値は,ランダムな0-1成分・±1成分の対称・非対称行列式(計4種)と比較して,極端に大きい」「±1成分のDemjanenko行列式の桁数と,Hadamardの上界の桁数の比は,(数値実験した範囲では)96%以上」という観察結果を前年度までに得ていた.本年度は合成数分体の場合のDemjanenko行列(Hirabayashiによる一般化)と,素数p分体の場合とを比較した.その観察結果から素数p分体の場合のDemjanenko行列式の漸近的な挙動について一つの予想を提案し,その予想が正しいことの証明にめどをつけた.今後論文として発表予定である. 2.Demjanenko行列は実対称行列であり固有値がすべて実数値であるが,その分布はWeegnerの半円則から大きく外れており,絶対値が小さい固有値が極端に少ないという「Demjanenko行列式の極端な大きさ」の傍証を得ていた.またDemjanenko行列のその他いくつかの性質も特異であることは数値実験により観察している.今後の研究課題とする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
もともと観察していた素数 p 分体の場合の Demjanenko 行列式に加え,新たに合成数分体の場合の Demjanenko 行列式を考察した.両者を比較することにより素数p分体の場合の Demjanenko 行列式の漸近的な挙動について一つの予想を提案し,証明のめどをつけられたこと,数値実験は順調に進み,本研究課題開始前よりも広い範囲の数値実験データの蓄積が行えたこと,新しく数値実験した範囲でも従前の計算範囲での結果と同様に,問題としている行列式の値の大きさが極度に大きいという性質を持つことの確認ができたこと,行列式の値の大きさと固有値分布と関連付けて理解するという視点が生まれたこと,もともと想定していなかった Low Discrepancy Sequenceからの視点,球面上の点の配置問題(組み合わせ論的視点)を追求するという目標が生まれたこと,以上の事から,研究は順調に進んでいると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の目的は,成分が±1であるn次正方行列で行列式の値が大きくなるものを構成すること,および値が大きくなる理由の解明であるが,今後は,数値実験面と理論面についてそれぞれ次のことを行いたい. 理論面では,まず素数p分体の場合の Demjanenko 行列式の漸近的挙動に関する予想の証明を与え,次いで合成数分体の場合の Demjanenko 行列式の漸近的挙動も解明したい.そのうえで行列式の確率分布,実対称行列の固有値分布の中で当該の行列式の値の位置づけを行いたい.当該行列式の値は具体的に計算できるが,現在比較対象としている「ランダムな成分の行列式」「Hadamard 行列」以外の比較対象を見出すこと,たとえば Discrepancy と行列式の値の大きさ(あるいはd-efficiency)との関連を調査し,より明確な位置づけを行い,「相対類数由来の行列式の値が極度に大きい現象」の原因究明に当たる方針である. 数値実験面では,Demjanenko 行列式以外のタイプの行列式公式に関する数値実験に注力すること,また当初の予定よりもより大規模なデータを取得するため,BLAS や LAPACK も援用する,GPU の活用などにより,高速に大量のデータを蓄積して統計的な分析を行うことを 進めたい.また,今手元にある「行列式の大きな行列」を足がかりにして,さらに大きな行列式のものを構成することも行いたい.その際には一種の最適化問題に帰着して GPU 等を活用する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 平成28~29年度に円分体の相対類数の行列式公式に対応したランダム行列に関する数値実験と考察を行い,その結果を学会等で発表した.これらの分析をもとに考察した結果,代数的組み合わせ論や多変数関数の最適化問題との関係を調べる必要が生じ,またもともとのDemjanenko 行列式に関しても漸近的挙動の予想を提案した.そのため計算機の機種選定から見直して計画を変更することとした.このため新観点での数値実験と解析,学会発表,論文執筆を次年度に行うこととし,未使用額はその経費に充てることとしたい. (使用計画) 平成30年8月中をめどに必要物を発注し,Demjanenko 行列式の漸近的挙動の予想に関する論文執筆・投稿を行う予定である.また,今後のさらなる研究のための数値実験を行い,数値データの確保に臨む.
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