本研究は,生物由来の素材からなる、数ミクロンから数十ミクロン程度の大きさの自律移動型センサを用いて、生体内に人工的なモバイルセンサネットワークを構築することを目的としている。このようなセンサネットワークは、ナノ医療等への応用が期待されている。生体内モバイルセンサネットワークを構成するセンサは、非力であり、確率的に動作する。そのため、多数のセンサを有機的に統合して、所望の機能を実現する必要がある。この問題に対して、まず本年度は、センサの集団において情報を効果的に共有するための情報伝播方式について検討した。
具体的には、伝染病の伝播モデルをもとに、中間ノードによる分子信号の増幅を取り入れた情報伝播方式を設計した。この方式において分子信号の増幅は、センサから放出される分子信号の強さが、ある閾値を超えた時に起きる。したがって、分子信号を放出しているセンサの付近、もしくは、分子信号が集中している領域に入った時、中間ノードは分子信号を増幅する。中間ノードが分子信号の増幅を繰り返すことによって、全てのセンサに情報を伝播させる。この情報伝播方式の性能を評価するために、実際のセンサとしてバクテリアを想定して、拡散係数、分子信号の強さ、信号の減衰率、および、センサの数といった通信パラメタの影響を計算機実験を通して分析した。また、この情報伝播方式を標的検出に適用したリーダ・フォロア・信号増幅モデルを新たに提案し、計算機上でその有効性を検証した。
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