平成29年度に開発したICNルータ用の高速キャッシュアルゴリズム(フィルタ)と既存キャッシュアルゴリズムを実験的に評価して優位性を検証した。さらに、ビデオのようにサイズの大きいコンテンツが普及する将来に向けて、既存キャッシュアルゴリズムがキャッシュヒット率を劣化させる課題の原因を究明し、フィルタにより解決可能であることを検証した。 第一に、ICNソフトウェアをPCハードウェアプラットフォーム上に実装し、キャッシュアルゴリズムとして、フィルタならびにARC、FIFOなどの既存のキャッシュアルゴリズムを実行し、性能を比較した。この結果、フィルタは、ARC、FIFOと比較して処理時間を短縮するとともに、キャッシュアルゴリズムの中で高いキャッシュヒット率を持つARCと同等のキャッシュヒット率を得られることを明らかにした。 第二に、FIFO やLRU を用いたパケット単位のキャッシュ置き換えでは、大容量オブジェクトをキャッシュに格納する際、あるオブジェクトのパケットが、同じオブジェクトの他のパケットによりキャッシュから追い出される現象、自己置換が発生する。自己置換の発生過程の解析モデルを開発し、解析モデルを用いて大容量オブジェクトがLRU を用いたパケット単位キャッシュに挿入される際のキャッシュヒット率、および自己置換の発生確率を明らかにした。 第三に、解析結果より、自己置換発生確率はオブジェクトサイズの増加に伴い上昇し、あまり要求されないオブジェクトのパケットのキャッシュへの挿入を制限することが自己置換の発生を抑制できる方法の1 つであるという知見を得た。さらに、この知見に基づいて、到着したパケットをキャッシュに挿入するか否かを決定する挿入判別アルゴリズムとして、フィルタ用いることで、自己置換の発生を抑制できることを、シミュレーションを用いて明らかにした。
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