研究課題/領域番号 |
16K12441
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
塩入 諭 東北大学, 電気通信研究所, 教授 (70226091)
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研究分担者 |
大内田 裕 東北大学, 医学系研究科, 助教 (80510578)
松宮 一道 東北大学, 電気通信研究所, 准教授 (90395103)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 注意 / 視覚的注意 / 身体性注意 / フラッシュラグ効果 / 錯視 / 脳波 / 定常的視覚誘発電位 |
研究実績の概要 |
本研究では切断に伴う存在しない手足の感覚(幻肢)を持つ患者の身体についての脳内の表現(身体表象)を解明するために、フラッシュラグと呼ばれる錯視効果を利用する。幻肢に対する注意効果が存在することが、またフラッシュラグ効果によって注意計測が可能であるとの知見に基づき、フラッシュラグ効果による身体近傍の注意効果計測手法について検討した。画面の左右に配置された視覚刺激に対してフラッシュラグ効果を測定した結果、自身の手が視覚刺激の近傍にあるときには効果が減少することを明らかにし、フラッシュラグ効果によって身体位置を推定する手法を確立した。フラッシュラグ効果は運動刺激の近傍に呈示される短時間呈示刺激(フラッシュ刺激)に対する効果として報告されたが、色や輝度の変化でも同様のものが確認されている。本研究では、特定の位置における局所的な効果を測定するため、明暗変化など移動しないいくつかの刺激について検討した。その結果、運動対象による計測が容易であるとの結果を得たため、回転する線分刺激とその端でフラッシュする点を利用することとした。複数の位置の回転線分のいずれかにフラッシュを呈示することによって、身体位置から距離によるフラッシュラグ効果が測定することができ、身体付近の注意効果を知ることができる。 さらに、同時に行った脳波計測によって、注意効果を確認をするとともに手の周囲における注意の分布の推定も試みた。ここで用いた解析は、定常的視覚誘発電位というものであり、複数の位置における注意効果を同時に推定することができる手法である。その結果、指先でより注意効果が大きいことが示され、身体周辺の注意の広がりについて新規の知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度は、フラッシュラグ効果によって身体性注意の計測手法を確立することが目的であった。この点については、予定通り回転線分を用い、フラッシュと線分の位置関係を記憶し、試行後に画面で再生することで計測可能であることを示す事ができた。その計測においては、単に手の周辺での注意効果を示すだけでなく、視覚的には手が見えない状況においても注意効果が存在することを明らかにすることができた。これは自身の手の視覚情報を持たないが残存する体性感覚を持つと考えられる幻肢患者を想定した場合にも、身体性注意の計測が可能であることを示唆する重要な知見である。この点は、予定された内容を超えた成果と癒える。 また、脳波計測による注意の空間的変化の計測も、次年度以降の予定を先取りした成果である。計画段階では、注意の空間変化は様々な位置でフラッシュラグ効果を計測することを検討していたが、定常的視覚誘発電位を利用した脳波による注意計測を用いることで、同時に複数箇所における注意効果の測定を実現することができた。ただし、これは実験室において精度良く脳波を計測する必要があるとの制約があるため、本研究の主要な実験に利用することはできない。 実験手法を簡易な注意計測手法に改善することは本研究で、今後なすべきことである。この点については、モバイル機器を用いた実験装置を実現する必要があるが見通しがたっているとはいえない。 以上の点を鑑みて、全体的に当初の計画を上回る進展をしているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、幻肢患者を模擬した実験条件を設定し、その条件での身体性注意計測を試みる。幻肢は、視覚情報も触覚情報もない条件での身体の存在感であるのでそれぞれを制御する条件を設定する。視覚情報が無い条件において、手の周囲の注意効果を計測できることはすでに明らかにした。しかし、幻肢患者と健常者では触覚においては全く異なるため、その点を考慮した実験が必要である。ここでは、錯覚を利用することで実際の手の位置と異なる位置に手があるように感じる条件を設定することで、脳の判断によって決められる手の位置に対する身体性注意について検討する。利用する錯覚は、ラバーハンド錯覚よばれるもので、腕を模した模型を自身の腕と錯覚するもので、錯覚状体で腕位置付近の注意効果を測定する。ラバーハンド錯覚は、ヘッドマウントディスプレイに表示されたCGの腕を、実際の腕と同期して動かすことで誘発でき、CGの腕が自分の腕に感じられる。ラバーハンド錯覚を生起した上でその腕を隠せば、幻肢条件を実現することができる。幻肢患者を模擬した条件で身体性注意について調査し、その後幻肢患者への展開を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験装置が既存の設備の転用による比較的安価に構築できたため、物品費に余裕が生じたため。
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次年度使用額の使用計画 |
予想以上の成果を得ていることから、より多くの成果発表の機会を持つ事が望まれる状況であり、旅費としての利用を計画している。
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