研究課題/領域番号 |
16K12443
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
齋木 潤 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60283470)
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研究分担者 |
上田 祥行 京都大学, こころの未来研究センター, 特定助教 (80582494)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ニューロフィードバック / 認知制御 / 課題間転移 / fMRI / 視覚的注意 |
研究実績の概要 |
当該年度は、3つの研究課題に取り組んだ。(1)認知制御機構のニューロフィードバックの主課題として、ニューロフィードバックのためのフィードバック信号の設計を行うために、新たな課題の開発に着手した。古典的認知制御課題としてストループ課題、フランカー課題、サイモン課題が知られており、このうちのフランカー課題とサイモン課題を合成した課題がすでに開発されている(Multi-Source Interference Task: MSIT)。これにストループ課題を合成した課題を作成し、その行動データを収集した。また、この課題に対し、数種類のトレーニングを行い、認知制御機能が上昇する可能性についても検討した。その結果、MSITにストループ課題を合成した新課題では、MSITと比較して、この課題でなければ得られないような有益なトレーニングの効果が見られなかった。そのため、既に広く使われているMSITを認知制御課題として用いることとし、有益なトレーニング方法を開発することを中心に取り組んだ。(2)マインドフルネス瞑想を内的状態の制御と捉え、この過程をニューロフィードバックによって実現するための研究に着手した。具体的には洞察瞑想時の脳機能計測研究を行っている大学院生と連携し、彼が得ている瞑想時の脳活動をフィードバック信号としたニューロフィードバック実験を計画している。(3)将来ニューロフィードバック研究への発展を見据え、視覚探索課題における注意制御様式の変化を行動実験によって検討した。ブリティッシュコロンビア大学との共同研究で、先行する物体認識課題や文字を用いた探索課題が、視覚探索行動の特性を変化させることが分かっている。この現象の機序を検討するための行動実験を国際共同研究として行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
課題(1):参加者自身の課題成績に応じて、課題の難易度を変化させることによって、45分程度のトレーニングで、MSITの成績を有意に改善できることが示された。これは、参加者の成績に合わせて効果的なトレーニングをすることによって、短時間で認知制御機能を改善できる可能性を示唆している。MSITの成績の改善が、課題に特異的な能力の促進ではなく、一般的な認知制御機能の促進であるかどうかを検討するために、MSITを用いたトレーニングによって他の認知制御課題でも成績が上昇するかどうかを検討する必要がある。また、トレーニングによってどういった脳活動の変化が生じたのかをfMRI測定によって明らかにする必要がある。これらが揃うことで、どのような脳活動を対象に、効果的なニューロフィードバックトレーニングを行うかが設計される。課題(2):もとになる瞑想時のfMRI研究については現在、共著で論文執筆中であるが、この結果を基にしたニューロフィードバック研究の可能性について現在、具体的な検討を開始した段階である。課題(3):ブリティッシュコロンビア大学のRensink教授の研究室で見出された視覚探索課題の前に実施された物体認識課題が探索様式を変容するという知見の一般性を確認するとともに、文化間差の可能性も検討するためにRensink研究室の学生が京都大学に滞在して一連の実験を行った。現在、結果の解析を進めるとともに、追加実験を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
課題(1):今後、MSITのトレーニング中の脳活動を計測し、トレーニングによってどのような脳活動の変化が生じたのかを明らかにする。また、このとき、トレーニング後にMSIT以外の認知制御が必要な課題(例えば、情動調整課題など)を行うことによって、トレーニングの効果が他の課題にも波及するのかを、同時に検討する。MSITのトレーニングの効果とトレーニングによって変化する脳活動が判明した後、その脳活動を対象にニューロフィードバックの操作を行い、MSITの課題成績の改善および認知制御機能が関わる他の課題成績の改善が見られるかどうかを検討する。課題(2):具体的な瞑想のニューロフィードバック実験の計画を進める。課題(3):追加実験を進め、短期間の探索様式変容の機序の理解を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
MSIT課題を用いた課題干渉効果の学習に関する行動実験による検討が予定よりも時間を要したため、当該年度に実施予定のMRI実験を次年度実施に繰り越したため。
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次年度使用額の使用計画 |
MRI実験を今年度に集中して実施する予定である。そのための施設使用料などとして使用する。
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