研究課題/領域番号 |
16K12447
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
伊藤 一仁 九州大学, システム情報科学研究院, 特任助教 (80443167)
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研究分担者 |
森 周司 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (10239600)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 聴覚 / 骨導知覚 / 可聴上限周波数 / 蝸牛増幅機構 / 老人性難聴 / 骨導超音波 |
研究実績の概要 |
本研究では、骨導聴覚を用いて蝸牛増幅機能の減退と老人性難聴の罹患との関係を検証し、初期老人性難聴の診断・検査手法を確立することを目的としている。今年度は、若年の被験者を中心に骨導の等ラウドネス特性の計測を主に行い、蝸牛増幅機能のトノトピックな限界と気導聴力の上限周波数との関係を検証した。一方、初期の老人性難聴の罹患が想定される中高年の被験者については、平日での実験参加の困難さから、期待通りの数をこなせなかった。そのため、その代替案として、数十名の若年者について標準聴力検査を実施し、中年者に類似した初期の老人性難聴罹患モデルの発掘を試みた。その結果、数名の若年者において、すでに初期老人性難聴の罹患を疑われる兆候が示されており、今後の重要な被験対象者として経過観察を行うこととした。 一方、これまで骨導振動子として採用していた村田製作所社製の超音波振動子MA40E7Sの生産中止を受け、その代替品の選定と新たな骨導振動子の開発に着手した。当研究での超音波振動子は、ヒトに装着すると言う観点から密閉型と呼ばれる形状が望ましい。そのため、同形状と、同等の能力の両方を有する振動子の調査・選定に困難を要した。これまでのところ、富士セラミック社のFUS40BTを有力候補として、新たな骨導振動子の開発を進めている。 また、将来の超音波振動子の入手の困難さを鑑み、骨導超音波に替わる代替的な診断手法の開発にも着手した。その一例として、蝸牛増幅機能の減退が生じた高周波領域でのピッチ知覚の変質を明らかにし、その変質特性を利用した診断手法の検討を試みた。この成果について、2018年3月に行われた日本音響学会春季研究発表会にて研究発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は中高年者を含めた幅広い年代の聴取者を対象として、骨導の等ラウドネス特性の計測を実施する予定であった。これまでのところ若年者からのデータ収集は進んでいるものの、中高年者からのデータ収集はあまり進んでいない。進んでいない理由は、初期の老人性難聴の罹患者と想定される対象者の多くが平日に仕事を持つ一般な社会人であり、平日の実験に参加することが事実上困難であったことに起因する。会社勤めをリタイヤした、所謂シルバー人材にも活路を求めたが、その全てが既に中程度以上の老人性難聴を罹患しており、当研究の対象からは外れていたことも一因としてあった。 また、これまで骨導振動子として採用していた村田製作所社製の超音波振動子MA40E7Sの生産中止となったため、その代替品の選定と新たな骨導振動子の開発にも時間を要したこともその一因であった。
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今後の研究の推進方策 |
今後も、若年者および中年者の聴取者を対象として、骨導の等ラウドネス特性の計測を実施する。新年度より研究代表者が所属機関を異動するため、次年度は新たな所属機関において、改めて研究体制を再構築し、本研究を精力的に推進していく所存である。 特に、異動先の地域社会において、新たな被験者募集・獲得ルートの開拓が最大の課題となる。おそらく中年者の被験者の募集・選定は依然として困難が伴うと考えられるため、平日に時間的余裕のあると思われる主婦層や学生層に、実験参加を呼び掛けていく予定である。その中から初期の老人性難聴の罹患を示す候補者をスクリーニングし、一般的な中高年層と同等の被験者モデルとして活用することに注力していく。また、より多彩な診断技術の確立を目指し、蝸牛増幅機能の減退が生じた高周波領域でのピッチ知覚の変質特性を利用した診断手法の開発をこれからも進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、新しい骨導振動子の開発にかかる費用が全く判らなかったため、予算の使用を抑え気味にしていた。また、購入検討を検討している外国製の音響システムの価格が、周辺機器を含めると想定以上に高額であったため、購入の是非の検討、および類似の他社製品の調査等に時間がかかった。そして、次年度の予算との合算によりそのシステムの購入が余裕をもって行えると考えたため、今年度内での予算の執行を見合わせるに至った。
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