研究課題/領域番号 |
16K12448
|
研究機関 | 公立はこだて未来大学 |
研究代表者 |
佐藤 直行 公立はこだて未来大学, システム情報科学部, 教授 (70312668)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 脳情報処理 / ニューラルネットワーク / 脳科学 / 認知科学 / 記憶 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,長文読解経験の想起過程に着目し,海馬-連合野-環境のループ系における神経回路モデルを構築することで,全体の計算論的な機能デザインを解明する手がかりを得ることである.平成28年度は,長文読解記憶の最小限の構成として,大脳皮質(単語の脳内表現)及び海馬(連想記憶回路)からなる神経回路モデルを構築した.長文読解中の視線移動データに基づく単語時系列入力(300秒)及び,脳の自発的な活動を表すランダム入力を同時に海馬に与えると,海馬内ニューロン間の結合強度として記憶が貯蔵され,読解後に入力の一部を与えると連想回路記憶において単語時系列が想起できることを示した.海馬内の結合構造は複雑ではあるが,ランダム入力間の一方向結合が読解時の時間遷移を,ランダム入力から単語入力への一方向結合が単語生起順序の情報を表すと考えられた.これらの結果は,長文読解経験のような複雑な記憶が神経回路においてどのように貯蔵されるかを計算理論により初めて提案したもので,本研究の基盤となる重要な知見である.一方,モデルで得られた想起は,短時間(数百ミリ秒)で完結すること,想起を誘発するための適切な初期入力を要することなどの点で,ヒトの想起との類似性が低い.これらの点は,短期記憶など他の脳機能モジュールとの相互作用において修正されるべきものと考えられ,今後は短期記憶,想起文書き出しなどの脳機能モジュールを加え,想起の安定性に関する議論を行う.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画では,平成28年度に単語入力,海馬連想記憶,短期記憶,外部環境(想起文書き出し及び,書き下し文からの感覚入力)からなる多脳機能モジュール回路によるモデル構築を予定していた.一方,進捗状況としては,うち2モジュール(単語入力,海馬連想記憶)を実装したのみに留まるが,本研究計画全体の根幹となる海馬連想記憶における長文読解経験の特性を明らかにしたことは,今後,海馬記憶の利用に注力して他脳機能モジュールとの相互作用を設計できるという点で,十分な意義がある.よって,本研究課題はおおむね順調に進展していると考えられた.
|
今後の研究の推進方策 |
研究実施計画のとおり,今後は海馬の連想記憶の利用を軸として,多脳機能モジュールとの相互作用系を構築し,想起の安定性に関する議論を行う.多脳機能モジュールの相互作用の設計では,多重時間スケールの情報の統合が重要なポイントとなるが,被験者実験で得られる想起文と比較することで,もっとも妥当な相互作用系を設計・提案するとともに,脳全体の計算論的な機能デザインについて検討する.
|