研究課題/領域番号 |
16K12449
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
保前 文高 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (20533417)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 認知神経科学 / 発達脳科学 / 音声知覚 / 語彙 / 脳波 |
研究実績の概要 |
音声が情報を伝達するコミュニケーションの手段として成り立つためには、音声の受け手が情報をまとまりに区切ってとらえられることが不可欠である。本研究では、乳児が母語の音声を分節化してとらえているかを調べ、その上で、節目が現れることを事前に予測しながら聞いているのではないかという仮説を検証することを目的としている。さらに、分節化をできる程度と獲得する語彙数には関係があるという可能性を検討する。 女性が正対した位置で文章を読んでいるときの顔の映像を編集し、そのまま再生する正再生条件と時間的に逆に再生をした逆再生条件の刺激を昨年度に作成した。逆再生刺激は口の動きと音が出てくるタイミングは合っているように見えるが、日本語の音としては聞こえない刺激になる。今年度はこの刺激を使用して、視線計測と脳波計測を行った。視線計測では、顔刺激が提示されると直ちに乳幼児が目と口を見るとともに、目、口、顔の輪郭を長く見る傾向があり、従来の研究結果を再現している。その一方で、視線が口と目の間を行き来することが多く、視線が移動する契機をとらえることが重要になると考えられる。 6か月児から18か月児になる対象児の理解語数や産出語数を保護者に対する質問紙で調査することも行っており、平均的には理解語数が急速に増える段階があることを見いだしている。増加の仕方は、線形ではなく、階段状になる傾向がある。また、獲得された語を月齢ごとに分類することで、時期によって獲得される語彙が似ている傾向があり、クラスターを形成することも明らかになってきた。これらの結果をもとにして、乳児期の能動的な言語獲得モデルを検討することも継続して進める。研究成果の一部は、学会における招待講演や主催した公開フォーラムで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究期間2年目となった平成29年度も、計測を安全に行える環境であることを確認して、学内の研究倫理委員会の承認を得た上で、研究参加者の募集を開始した。当初計画していた月齢の幅を広げて、6か月児から18か月児の視線計測と脳波計測を行い、データを取得した。対象児によっては経時的に複数回の計測をお願いすることもできたが、必ずしも2時点のデータが全員についてそろうわけではないため、縦断的な検討とともに、横断的な検討をする方法を考えている。視線計測によって得られる、視線の停留位置や停留時間だけでなく、瞬目のタイミングや瞳孔径の検討をする方法を開発中で、現在の方法では、月齢並びに理解語数とともに瞳孔径の変化に違いが現れる傾向があることが、別のデータセットをもとにして認められてきている。今年度中に脳波計測のデータとあわせて本データの解析を進める。また、対象児の理解語数や産出語数を保護者に対する質問紙で調査することも平行して進めており、12か月から18か月の間で語彙数がどのように増加するかを検討している。男女差や平均的に獲得が進みやすい月齢、獲得しやすい語のグループ分けができる傾向が見いだされてきているため、継続して解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
文節や句の区切りに注目して、その前後における視線計測データと脳波データの取得と解析を重点的に進める。視線計測データと脳波データを並置して解析する方法の開発を進めて、瞬目前の脳波に焦点を当てる。脳波の平均波形だけでなく、時間周波数解析も検討する。特に、周波数帯域ごとの特徴がどのように現れるのかについては、乳幼児を対象とした研究は数少なく、取り組む価値のある課題になると考える。また、得られたデータにおいて正再生条件と逆再生条件に対する違いがどのように現れるか、さらには、月齢によって違いがあるかについても検討を始める。この目的のために、当初の計画で予定していた月齢よりも幅広い月齢の計測を実施する。 質問紙調査は継続して行い、月齢が上がるにつれて語彙数がどのように増加するのかをまとめる。特に、個人内の増加について注目する。また、視線計測データや脳波データから、語彙数の増加に影響を与えうる指標を探すことも続ける。獲得された語をグループ分けすると、獲得されるのがやや遅い語の群において品詞の違いが現れる傾向を見いだしている。日本語では、文の先頭には名詞が現れることが多く、動詞は節や文の終わりに現れることが多いことから、区切りの前後には名詞と動詞が現れる頻度が高い。このことをふまえて、グループ分けされる語を獲得する月齢と、視線計測データ、脳波データの関連についても検討する。 乳児はボランティアでご協力いただく研究協力者を継続して募集し、研究の趣旨を乳幼児の保護者に説明した上で、同意書に記入いただいた方を対象に計測と調査をおこなう。得られた結果は、学会における発表や論文として公表するとともに、フォーラムを開催することや、ニューズレターを発行することを通して公開する機会を設けることも検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
データの取得が進み、得られている分量が多く、また、経時的なデータを含んでいるため、次年度のデータとあわせて集計を行いたい項目があり、人件費・謝金のために繰り越すことにした。
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