音声が情報を伝達するコミュニケーションの手段として成り立つためには、音声の受け手が情報をまとまりに区切ってとらえられることが不可欠である。本研究では、乳児が母語の音声を分節化してとらえているかを調べ、その上で、区切りが現れることを事前に予測しながら聞いているのではないかという仮説を検証することを目的としている。さらに、分節化をできる程度と獲得する語彙数には関係があるという可能性を検討する。 女性が正対した位置で文章を読んでいるときの顔の映像を編集し、音声と口の動きに時間差を設けた刺激を提示しながら視線計測と脳波計測をおこなった。時間差がない場合には、口を見る傾向があるのに対して、時間差がある場合には、顔の他の場所を見たり、視線をそらしたりすることが多い傾向が認められた。 6か月児から23か月児になる対象児の理解語数や産出語数を保護者に対する質問紙で調査することも続け、名詞、動詞、形容詞のそれぞれに相当する語の獲得がなされる平均的な過程を月齢ごとに検討した。理解語数は、名詞では12か月齢から急速に増えるのに対して、動詞と形容詞は16か月齢以降に増加し、特に動詞が形容詞と比較して顕著に増加することが明らかになった。 名詞の獲得に関して、瞳孔径を指標として幼児語と成人が日常的に用いる語(成人語)に対する応答を検討したところ、月齢に応じて瞳孔径の変化が異なり、また、成人語に対して注意を向ける傾向があることが示唆される結果が得られた。これらの結果をまとめて、言語獲得に対して音声知覚が果たす役割について考察した。
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