研究課題/領域番号 |
16K12458
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研究機関 | 北陸先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
鵜木 祐史 北陸先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (00343187)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 音声プライバシー / 音声伝送指標 / 変調伝達関数 / 残響 / 聴き取りにくさ |
研究実績の概要 |
本研究では,音声伝送指標(STI)を音量ボリュームのように調整することで聴き取り側の音声了解度を低下させ,結果的に話者の発話内容を不明瞭にすることで音声プライバシー保護の実現を目指す. まず,室内インパルス応答(RIR)を構成する直接音,初期反射,後部残響の三つの要因に着目し,どの要因がSTIを一番大きく変化させ,音声了解度ならびに聴き取りにくさに影響を与えるか,定性的・定量的な検討を行った.その結果,後部残響がSTIに一番大きく影響を与え,さらにはその形状も重要な要因であることを明らかにした. 次に,RIRを統計的近似モデルとして表現し,現実的なRIRとそれに対応する変調伝達関数(MTF)の両方を精度よく近似する「拡張型RIRモデル」を提案した.特に,後部残響の特徴とそれに係わるMTF/STIの変化を系統的に分析し,音声プライバシー保護で利用するSTIの制御法を考案した. 次に,STIを陽に操作することで話者の発話内容を不明瞭にする方法を検討した.実環境では,室の伝送経路を直接操作してSTIを制御することは非常に難しい.しかし,話者から外に漏れる声(直接音)に対して,後部残響に対応する音刺激を遅延和として加算呈示することで見かけ上,全体の系のRIRを畳み込むことと等価な音響処理が可能である.さらに,この方法によってSTIを制御することで聴き取り側の音声の了解性を制御することも可能である.これらの検討結果に基づき,STIを利用した音声プライバシー法の原案を提案した. 最後に,音声了解度,聴き取り難さ,アノイアンスに関する主観評価実験を行い,提案法を評価した.その結果,従来法(マスキング法や残響付与法)と比較して,提案法は同程度の信号対雑音比で了解度を大幅に減少させ,聴き取り難さを増加できることがわかった.提案法が音声プライバシー保護として利用可能であることもわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究期間では,(1) STIを陽に制御して音声を不明瞭にするために,どのような室内インパルス応答を設計すべきか検討し,(2) 制御音声をどのように音環境に呈示すれば,話者以外の人にとって聴き取りが難しく,かつそれが音環境に溶け込み,違和感ないように受聴できるかを検討することを主たる計画としていた. 当該年度では,課題(1)をすでに達成した.さらには課題(2)の制御音声の呈示法とその音のアノイアンスを調査することで違和感について検討済みであり,いくつかの検討事項・課題も明らかにしている.そのため当初の計画以上に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
継続して(2)の課題に取り組むが,現状では次の諸課題について明らかにしている.RIRの後部残響を長くすればSTIを大幅に低下させることができ,結果的に大幅な音声了解度の低下と聴き取り難さの増加を実現できた.しかし,それと同時に(i) 提案法では十分にアノイアンスを下げることができていないこと,(ii) 後部残響の音声への付与の実時間処理が難しくなること,(iii) 特にこの処理時間を直接音と後部残響の間の時間以内(50 ms)に実現しなければならないことを明らかにした.まずはこれら3点について,深く検討するとともに,後部残響の長さよりも後部残響の形状を操作することでSTIの低減を狙う.また,音声の変調特性そのものにも着目し,STIとの関連性も検討することで音声プライバシー保護の性能向上も狙う.
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備考 |
TV取材,「音をデザインする」テレビ金沢・となりのテレ金ちゃん,鵜木祐史・北陸先端科学技術大学院大学,放送日 2016/9/7
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