台風に関する気象衛星画像のデータセットを構築し、このデータセットに深層表現学習(ディープラーニング)を適用するというアプローチで、台風解析という問題に対する機械学習の有効性を検証する研究を進めた。 1. 「ドボラック法」と機械学習の比較:このテーマは、専門家が目視で台風の勢力を推定する際に用いる「ドボラック法」と機械学習との比較が目的である。具体的には畳み込みネットワーク(CNN)をベースとした非時系列モデルと再帰型ネットワーク(LSTM)をベースとした時系列モデルを利用し、カテゴリー分類問題および中心気圧回帰問題の2点について研究を進めた。その結果、非時系列モデルでは中心気圧回帰の平均誤差が10hPa以下となること、時系列モデルでは台風の勢力変化に追従できるものの、特に強い台風に対する誤差が大きくなること、などの成果を得た。これらの成果は横浜国立大学との共同研究としてもすでに発表済みである。 2. 台風の温帯低気圧化の分析:このテーマは、台風から温帯低気圧への遷移を機械学習でモデル化し新しい指標を導出することが目的である。具体的には、台風を0、温帯低気圧を1とラベル付けしたデータセットをCNNに入力し、その出力を温帯低気圧への遷移度とみなした。その結果、気象庁が温帯低気圧化の完了を宣言する前から温帯低気圧への遷移が始まっており、CNNの出力はその遷移度として妥当性がありそうなことが判明した。さらに公式発表と実データとの時間差を計測できるなど、機械学習による全く新しい分析法として今後の発展が期待できる結果が得られた。 3. データセットとライブラリの公開:研究で用いたデータセットを一般に広く公開するための作業を進めた。データのクリーニングやデータにアクセスするライブラリ(pyphoon)の整備が進み、近い将来にデータセットを公開する目途を立てることができた。
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