研究課題/領域番号 |
16K12477
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研究機関 | 豊橋技術科学大学 |
研究代表者 |
北崎 充晃 豊橋技術科学大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90292739)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 自己運動知覚 / ベクション / 身体所有感覚 |
研究実績の概要 |
視覚誘導性自己運動知覚(ベクション)は,視覚刺激のみから身体運動が知覚される錯覚である。本研究は,これまでほとんど考慮されていなかった自己身体と自己運動知覚の関係を直接的に解明することによりベクション研究に新しい理論的枠組みを生み出すことを目的とする。このベクションについて,「ベクションは,自己身体が意識されなくなるほど増強される」という仮説を立て,身体所有感についてバーチャルリアリティと多感覚統合の心理物理学を組み合わせた実験を行い,身体消滅法について検証することを目的として実験を行った。 視覚刺激はヘッドマウントディスプレイ(HMD)に提示することにより自己身体をバーチャル化し,操作しやすくする。完全に自己身体と同じものがアバタとして正しい位置に見えている状態を基準として,自己身体の消滅化方法を開発し,一部について心理実験を行った。 まず,自分自身の身体(アバタ)が鏡に映っている条件と自分が幽霊のように姿が消えている条件とのベクションの比較を行った。被験者は最初,自分の周りの空間を見渡し,鏡に映る自分の身体を観察した。その後,視点が移動し始め広視野のオプティックフローが提示された。被験者は,自分の身体が動いているとベクションを感じた場合にはマウスボタンを押し続けるように教示された。そのボタンを押し始める時間(潜時)と押していた総時間(持続時間)をベクションの指標とした。その結果,身体が見えている場合の方がベクション持続時間が有意に長かった。次に,自己身体の運動と連動する身体が見えている条件と,自己身体が勝手に動いているように認知されている条件を比較する実験を行った。その結果,有意な差はなかった。 これらの結果は予想と反して,身体所有感が強いほどベクションが生じ易いことを示唆した。予想とは反する結果であるが,未だどこでも報告されていない新規性の高い成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
身体所有感覚の操作方法を開発した。それに基づき身体所有感覚を操作したベクションの実験を行い,妥当性の高い結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
初年度に引き続き視覚的消滅方法の検討を続ける。特に,多感覚刺激提示法と行為主体感の操作法を用いた自己消滅法を確立する。これらを用いて,実際にベクションに及ぼす効果を心理物理実験により検証する。仮説についてはニュートラルに捉え,自己消滅によるベクション増強と同時に,身体所有感覚の増強によるベクション増強の可能性も追求する。 初年度の成果を含めて国内外の学術会議での成果発表を進め,学術論文誌への投稿を行う。そのときには,プライバシーへの配慮のために,実験結果は全て匿名で扱い,学術誌への投稿,学会での発表の際には,平均値,標準偏差等の統計処理結果を記載し,個人を特定できる状態でのデータの公表はしない。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗に合わせて,その成果を発表する場として,視覚科学において最も注目されるVSS(Vision Sciences Society meeting)が相応しいが,その開催が5月であるため。購入を予定しているヘッドマウントディスプレイの要求特性の調査とそれに相応しい製品の特定に時間がかかったこと,および大学の経理処理が可能な国内代理店がないために年度内に購入手続きができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
5月の国際会議への参加,およびHMDの購入を行う。
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