研究課題
視覚誘導性自己運動知覚(ベクション)は,視覚刺激のみから身体運動が知覚される錯覚である。本研究は,これまで考慮されていなかった自己身体と自己運動知覚の関係を直接的に解明することによりベクション研究に新しい理論的枠組みを生み出すことを目的とする。このベクションについて,「ベクションは,自己身体が意識されなくなるほど増強される」という仮説を立て,身体所有感についてバーチャルリアリティと多感覚統合の心理物理学を組み合わせた実験を行い,身体消滅法について検証することを目的とした。視覚刺激はヘッドマウントディスプレイ(HMD)に提示することにより自己身体をバーチャル化し,操作しやすくする。完全に自己身体と同じものがアバタとして正しい位置に見えている状態を基準として,自己身体の消滅化方法を開発した。まず,自分自身の身体(アバタ)が鏡に映っている条件と自分が幽霊のように姿が消えている条件とのベクションの比較を行った。被験者は最初,自分の周りの空間を見渡し,鏡に映る自分の身体を観察した。その後,視点が移動し広視野のオプティックフローが提示された。被験者がベクションを感じ始める時間(潜時)と押していた総時間(持続時間)を指標とし計測した。その結果,身体が見えている場合の方が持続時間が有意に長かった。次に,自己身体の運動と連動する身体が見えている条件と,自己身体が勝手に動いているように認知されている条件を比較する実験を行った。その結果,身体運動同期条件の方がベクション潜時が有意に短く,持続時間が有意に長かった。これらの結果は予想と反して,身体所有感が強いほどベクションが生じ易いことを示唆した。したがって,身体所有感の増強がベクション知覚を促進し,自己消滅が外界の認知を増幅する可能性があることが示唆された。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (1件) 学会発表 (10件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
心理学評論
巻: 59 ページ: 312-323