研究課題/領域番号 |
16K12480
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小木 哲朗 慶應義塾大学, システムデザイン・マネジメント研究科(日吉), 教授 (00282583)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | イルカ / コミュニケ-ション / 学習 |
研究実績の概要 |
イルカ等の海洋知的生物は人間のトレーナーとコミュニケーションを成立させているが、その原理はあまり明らかではない。人間とイルカのコミュニケーションの方法を分析し、その原理を明らかにすることで、コンピュータとイルカのインタラクションあるいはコンピュータを介した人間とのインタラクションを実現できることが期待される。 本研究では、トレーニング、ショー、検査時等におけるトレーナーとイルカの行動の様子を複数台のビデオカメラで撮影し、人間とイルカのコミュニケーション行動の観察、分析を行った。その結果、多くのコミュニケーションはイルカが水面から顔を出している際の視覚的な情報伝達に従っており、この視覚情報の理解はトレーナーによるオペランド条件付けの学習によって学んだ合図に基づいていることが分かってきた。 そのため、ここではイルカに対して情報デバイスを用いたコミュニケーションを実現するため、タブレットを用いた視覚情報提示によるイルカへの行動指示に関する学習実験を行った。 実験では、イルカが学習済みであるトレーナーのハンドサインの行動をビデオ映像として記録し、そのビデオ映像をタブレット上に提示することで、イルカの提示映像に対する理解、および提示映像に対する学習過程を観察した。その結果、個体差はあるものの、これまでに学習経験の高いイルカに関しては、数週間程度で提示映像に対する指示行動の学習を実現できることが確認された。 今後は、複数の提示映像に対する識別精度、提示映像の抽象度に対する理解度等に関する実験を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新江ノ島水族館の協力を得て、トレーナーとイルカのコミュニケーションの様子を複数台のビデオカメラで撮影し、映像を分析するとともに、トレーナーの方へのインタビューを行い、トレーナーからイルカへの意思の伝達の仕組みや、イルカのトレーナーの指示に対する認識精度等に関し、幾つかの仮説が得られた。 その結果をもとに、情報デバイスとしてタブレット端末を用いた映像情報提示のための実験装置を構築し、イルカへの映像情報を用いた指示に関する学習実験を開始した。この際、イルカが泳ぐプールサイドで水面に顔出したイルカに情報を提示するため、タブレット端末には防水を施し、トレーナーが操作を行う必要が無いように遠隔操作による画面表示の制御機能の仕組みを導入した。このタブレット端末を用いて、これまでにイルカが人間の動作指示として学習済みである、「口開け」、「ターンオーバー」等の行動を指示する映像を提示した。その結果、当初は映像の意味を理解せずに、トレーナーの実際の指示動作とタブレット上のビデオ映像を同一視できていない状況であったが、ジェスチャを使用した指示動作とビデオ映像の提示を組み合わせた学習を実施することで、比較的短期間でビデオ映像に対する指示動作を学習することができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの学習実験により、ビデオ映像を用いたイルカへの単一の行動指示に関しては実現することができた。しかしながら、イルカが本当に理解しているかどうかはイルカの行動観察でしか分からないため、イルカがタブレット上のビデオ映像の意味を理解しているのか、単にタブレットそのものの提示を合図と認識してしまっているのか等を区別することができない。そのため次の段階としては、同一のタブレットを用い、複数の指示映像を提示させることで、映像ごとの内容の違いを区別して、イルカが合図に従った行動をとれるかどうかの学習実験を行う予定である。この際、学習過程におけるイルカの反応を細かく記録しながら分析を行うことで、映像の内容を区別ができるようになるまでの学習の仕方や学習効率についての分析を行うことができる。 また本研究における実験は、イルカという生物を用い屋外での実験を繰り返すため、実験の進捗がイルカの体調や天候等に影響を受けてしまうという問題がある。そのため、イルカの学習実験は、余裕を持ったスケジュールでの実験計画を立てて実施することが重要であることが認識された。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果を発表するための学会参加費の旅費を計上していたが、協力を依頼していた新江ノ島水族館との調整により、実験の開始が遅れたこともあり、日程的に本年度の成果発表を行うことが間に合わず、旅費相当分が次年度使用額として発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
実験開始スケジュールの多少の遅れはあるが、実験の成果そのものは予定通りに進んでいるため、今年度の研究成果に関する学会発表は次年度に実施する予定であり、そのための旅費として使用する予定である。
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