研究実績の概要 |
発達障碍児の表現意欲を引出すために,互いの手のひらで把持しあうことによって手合わせ表現を促す創出的インタフェースの設計と開発を昨年度までいくつも行ってきた.そのなかで,創りあう表現の力性をインタフェースでキャッチし,その力学的情報を音に変換して出力する音生成インタフェースは,他のインタフェースに比べ,共創表現を生み出す可能性が大きいと考えられる.そこで本年度は,身体表現に及ぼす音生成インタフェースの効果を,重度の自閉症児が集う児童福祉施設(石巻市)において実践的に研究するとともに,施設職員の意見をふまえ,インタフェースの小型軽量化も図った.得られた知見は以下の通りである. 1) 音の発生をインタフェースの動きや傾きを指標に制御すると,自らは手を高くあげようとしない自閉症児が上下方向に頻繁に手を動かすようになる.しかし,このような一義的なルールで,身体全体を使った多様な表現を促すことは一般に困難である.2) 昨年度提案したような,インタフェースを介して互いの力のやりとりと音生成のあいだに多様なズレを生じさせる手法は,反復的な運動を繰り返す自閉症児にそれが完全な反復ではないことを自発的に気づかせ,他者と出会い,他者とつながる手がかりを与える可能性がある.3)比較のため開発された,一人で把持して表現を創りあう音生成インタフェースは相手からの物理的な拘束を受けないため,自閉症児に受け入れやすく,自分一人で腕を動かし,楽しそうに音を創る様子が観察されたが,それが身体的な音のやりとりや,身体全体を使った共創表現につながるかどうかは,今後の課題である. 以上に加え,創出的インタフェースの位置やそれにかかる力の時系列データを,相澤洋二(早大名誉教授)が考案した心理物理方程式に適用することで,表現意欲を数理的に評価することにも挑戦した.最後に,本研究課題の総括を行った.
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