近年、屋外の防犯カメラが犯罪捜査に高い効果を上げる一方で、近い将来、パスワード・暗証番号として入力された情報が盗み見られる、超高解像度カメラの普及が進むと考えられる。本研究では、ヒトがどこを見ているか外部からは正確には観測できないという性質、つまり、光軸(ヒトの眼球の形状の中心軸)と視軸(ヒトの注視点に基づく軸)にκ角と呼ばれるズレがあり個人差が大きいという性質を活用した、新しい認証技術の確立に挑戦した。具体的には、外部から観測が困難な、視線インタラクションによる個人認証技術の確立に向けて、以下の課題に取り組んだ。 1つめの課題は、κ角の分布の計測である。ここでは、先行研究で開発した1点キャリブレーションによる視線計測システムをベースに、キャリブレーションの過程で算出・補正していたκ角を、200人以上の協力者を対象に計測した。平成28年度には、個人差が大きいとされていたκ角の分布を実際に計測し、他人拒否率が概ね数%から10%程度となることを明らかにした。平成29年度には、計測の精度を向上させて、本人拒否率の向上にもつなげられる計測システム開発を行った。 2つめの課題は、インタラクション方式の開発である。ここでは、1)サーバから認証端末に画像を送信し、2)その画像を見る際の光軸のみを認証端末で計測し、3)それをサーバに送信して、4)送信された光軸の情報とサーバ上のκ角から注視点を復元する、というフレームワークを提案した。これにより、認証端末ではユーザが何を入力したかが分からず、端末および通信路で情報が漏洩しない情報入力が可能になることを提案した。 3つめの課題として、システムのプロトタイプを開発した。公開のデモ展示も行い、視線入力の利便性に加えて、本技術の安全性についてもアピールした。
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