重心計測やモーションキャプチャによる歩容動作を基にして2症例を対象として脚部の疾患に関する専門医が持つ暗黙知の形式知化を行った。1つは人工膝置換術後の被介護者を対象とした。暗黙知の形式知化のために,理学療法士らがリハビリテーション中の歩容を主観的に評価することを行った。この評価と計測データを比較すると,計測データから人工膝置換術後の回復度合いが推測できる成果を得た。しかしながら一部の歩容はこれに当てはまらないことが分かり,その原因を調べたところ,理学療法士の注目点が,理学療法士が言葉で伝えていた部分と違うことが分かった。それを数値化したところ,年限に従い注目点が変化する様子が確認でき,理学療法士の暗黙知の一端を解明する成果を得た。もう1つは陥入爪の被介護者を対象とした。陥入爪の原因ははっきりとわかっていないが,医師らは歩容に特徴がありそれが影響しているという暗黙知を持っていることが分かった。人工膝置換術と同様の方法で歩容動作の計測を行った。陥入爪に関しては被介護者の性別や年齢などのパラメータも含めて解析を行った。その結果,外側から着地する歩容が多くみられることが分かった。これを統計的に解析することで,この歩容動作が陥入爪の有無に有意な差がみられることが分かった。以上より,陥入爪患者の歩容に関する暗黙知の一端を明らかにすることができた。当初の目的は脚部の疾患であったが,指の動作に関する暗黙知を持つ医師が多くいることが明らかとなった。そこで,我々が開発した各指の力を測る装置を用いて計測して分析をしたところ,医師らの暗黙知に一致する分類ができることが分かり,本手法が脚部の疾患だけでなく,他の疾患にも適用できる可能性があることを示した。
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