スパース推定は,高次元の冗長な情報から,冗長性を取り除いた低次元の情報を取り出す枠組みである。非零要素が少ない高次元の原信号の線形和を少し観測して,その少ない観測信号から原信号を推定する問題として定式化される。できるだけ少ない観測信号から,疎な高次元の原信号を推定することが目標となる。この枠組みは統計学での回帰分析のひとつであり,早くから機械学習の分野で応用されており,信号処理や情報理論など多くの分野で詳しい議論がなされている。スパース推定は広い応用を持ち,より効率的な推定手法の開発が続いている。推定値を求める問題は,最適化問題として定式化される。例えば,内点法の時間計算量が問題の規模すなわち推定するベクトルの次元の3乗に比例するなど,凸最適化となる場合でも一般的な解法を適用すると計算コストが大きくなりすぎてしまう。画像処理やデータ通信への応用では,推定するベクトルの次元が大きいことが多いため,より時間計算量の小さい推定手法が求められる。 時間計算量が小さい推定手法として,反復法に基づく方法が広く検討されており,特に,近似的確率伝搬法(AMP)が利用されてきた。AMP については,その反復アルゴリズムに含まれるパラメータを最適に決めるため,推定手法の動的な性質の解析が進められている。本件研究課題では,AMPにダンピングを導入した場合の性能評価を行った。まず,AMPの変形であるOrthogonal AMPの解析を行い,その解析結果がAMPにも適用できるものであることを,Onsager項がどのようにキャンセルされるかを評価することによってダンピングAMPの性能評価ができることを示した。
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