研究課題/領域番号 |
16K12500
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
稲葉 雅幸 東京大学, 大学院情報理工学系研究科, 教授 (50184726)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 義肢装具 / 義足 / 直列弾性アクチュエータ / ヒューマノイド / 二足歩行 |
研究実績の概要 |
初年度は、当初計画通り、以下の研究項目を実施した。 1) アクティブ義足のメカニズムの設計:歩行のモーションキャプチャ環境を利用し、体幹・脚部・足部の歩行メカニズム解析可能な準備を行い、健常者の歩行,障害者による義足をつけた歩行を安全に行えるガイド手すり環境を設け、両者の違いを検出できる歩行状態計測評価蓄積環境を構築した。歩行の一周期を義足を装着した脚の立脚相と遊脚相に分けて解析を行う。立脚相は踵接地の直前から膝が最大20度まで屈曲し遊脚相に入るまでの動作となり、立脚相は、着地衝撃を吸収し、体重を支え、屈曲を行う機構が義足に必要となる。遊脚時には、屈曲と伸展を行うことになる。 2)アクチュエータシステムの開発:軽量かつコンパクトとなる直列弾性アクチュエータ(SEA)を利用する膝関節義足を試作した。SEAには、伸展バネと屈曲バネ機構を組み合わせ、体重を支えることが可能なモータ駆動制御ボードにより、制御モードを変更可能なシステムを実現した。伸展バネと屈曲バネにより人の歩行運動のエネルギーを蓄積し、必要に応じて、そのエネルギーを運動へリリースすることで歩行の動きを補助する仕組みとなる。可変粘性機構による衝撃吸収、ダンピング抵抗調整による生体インピーダンス適合と膝折れ防止機構を実現するには、立脚相、遊脚相のそれぞれにおける異なる制御を行うことで実現する環境が整った。 3)試作義足の継続的評価のために装着し、歩行状況の計測蓄積を行い、動作条件の違いごとにどのようなデータとなるかを障害者の主観評価だけでなく、歩行データとして蓄積し感性評価とデータ評価の比較可能な環境を実現した。とくに、立ち上がり動作の際に、パワー駆動により身体が傾かずに垂直に立ち上がることができ受動義足では体験したことが無い主観評価が可能となり、その際に必要な駆動力のデータ蓄積も可能となった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、受動義足利用の博士学生がパワー義足の研究を行いたいということで申請を行い、採択されたもので、当初計画は早期に達成でき、その後の成果展開において大きな進展があった。 当該学生は、すべての人に同じようなモビリティを与えたいと、本研究成果を将来の起業を通して社会へ転換する方策を学びたいと、学内の社会連携リーディング大学院プログラム、起業インキュベーション産学連携プログラムへ参加し、起業のための準備活動も行ってきた。 指導教員としては、その学生の考えを支援するために、本研究構想と途中成果を活かして、科学技術振興機構の「研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム」(START)へ応募し、採択され、市場調査、特許調査、ビジネスモデルの構想をもとに起業を支援するプログラムも同時並行させて進めることとなった。本挑戦的研究では、当初計画通り、新しい挑戦的課題としての基礎理論と評価を行い、研究成果展開事業STARTの方では、市場調査と社会実現するための展開のための研究を行うという切り分けを行うこととしている。 また、当該学生がチームを作り、東大学内学生インキュベーションプログラムにおいて学生構想発表を行い学内選考にて最優秀評価を与えられ、2017年3月に米国テキサス州オースティンにて毎年開催されている展示会であるSXSW (サウスバイサウス)展示会へ義足の展示発表が可能となった。そこへは、本科研の研究成果の試作をもとに、見た目のデザインと軽量化の改良版試作をSTARTで行い、それをもとに展示会での発表を行ったところ、日本初のSXSWInteractive Innovation Awardsを受けることになった。 これらは本科研費挑戦的課題研究をもとに急速に研究成果を展開し、可能性の評価を高く認められることとなったもので、当初計画では想定していなかったことである。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、当初計画通り、新しい挑戦的課題としての基礎理論と評価を行う。具体的には、昨年度試作義足に歩行状態推定センシング機構、制御系、電気回路改良試作開発を進め、よりよい義足へ向けてのメタボリック負荷、エネルギーロスの低減等の質・安全・耐久性の観点からの評価をデータとして蓄積し、機電回路制御系の評価開発ループを繰り返し、本研究の総括を行う。
立脚相の踵接地と踵離地、立脚相と遊脚相の初期、中期と終期、速度と地面の変化を検知するセンサー搭載、センサーによりアクチュエータを常に制御する制御系を開発する。エネルギー蓄積リリースの補助としての電力蓄積回生機構を設計し、人の歩行運動のエネルギーをバネへ蓄積し、それをすべて解放するのではなく、モータが発電機として、余分なエネルギーはバッテリーへ回生することを実現する。バネが蓄積したエネルギーを解放することで、ボールネジとナットを動かし、モータを反転させることで、電流を生み出すことでエネルギー効率を高める機構を試みる。
膝継手と足部間の力センサによる立脚相の踵接地と踵離地の検知、ジャイロ・加速度・角度センサーによる立脚相と遊脚相の初期、中期終期の検知により、各歩行フェーズに応じたユーザの意図に合わせた動作制御を行う。各センサーによる義足自体の動きと外部環境からのリアクションを検知し、それぞれの状況に応じて、4つの要素の作動をコントロールできるアルゴリズムを開発し、全体の制御系を実装する。これらの制御回路試作修正評価開発のループを日々の装着実験で行い、当事者評価開発ならでは研究知見を明らかとし、本研究を総括する。
|