本年度は、昨年度の知見を踏まえ、幻視を可視化するスマートディバイスアプリを実作した。想定した使用環境は、レビー小体型認知症患者(以下、患者)とその介護者とが会話をする場面とした。患者が幻視を見たという場所を、介護者がアプリのカメラ機能で場所を撮影し、スタンプ機能を使用してネズミや虫、人といった幻視内容を再現できる。スタンプ画像は大きさや角度、場所を変更できる。またスタンプはインターネットを介して追加できるため、必要に応じて内容を増やせる。また記録機能も搭載し、幻視をみた場所や時間、内容を履歴として振り返ることができる。 制作したアプリの有効性を明らかにするため、健常者を対象とした情報伝達効果を調査した。健常者どうしを対象に、幻視を見た状態を想定した患者役と介護者役とに分けた。患者役には4つの対象物を見せ、「会話のみ」「メモ書きありの会話」、そしてアプリで再現しながらの「画像ありの会話」の3方法によって4対象物を介護者役へと伝達させた。調査の結果、いずれの方法でも対象物は伝達されたが、対象物を修飾する単語数は会話のみよりもメモ書きあり、さらには画像ありの方が多く、誤情報の出現数も少なかった。これらの結果から、本アプリで実現できる患者と介護者が患者の幻視状況を再現しながら会話していくことが、互いの共有に有効であることがわかった。本アプリは、介護をする人々から好意的な意見が伺えているため、実証実験を継続し有効性を示す。 また介護者の幻視知覚状態への理解度を高めるため、VR(バーチャルリアリティ)によるツールも完成させた。先のアプリと同様に、患者との会話を促し、患者が見る幻視状態を擬似再現させることで、介護者が患者の幻視状況をより現実感を持って把握しやすい環境を提供できた。 こうしたツールを介在させることで患者と介護者との会話を助け、互いの状況を共有させることが改めて大切である。
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