一般的に,対象物の形状を決定するデザインでは,いわゆるセンスの問題として属人的な側面が強調される.一方で「機能美」の概念のように,構造形態・形状の力学的な妥当性が美しさとして表出するとの考え方がある.このことは,デザインの感性的側面と力学的合理性のような客観的側面が不可分であることを示唆している.本研究は,製品の形状から印象が形成される過程において,その製品内部の力学的負荷の空間的分布のパターンが,人には力学的表情として潜在的に認知されているとの仮説をたて,形状と印象との関連をディープラーニングによる出力結果から実証的に検証しようとするものである. 最終年度である平成30年度には,これまでに構築した既存容器形状から進化計算法的に多様な新規形状を創成するシステムを用いて,形状画像に対するディープラーニングシステムによる評価と,その形状に対する力学的評価との対応を検討した.陶磁器カップ形状を例に,新規創成形状のレンダリング画像に対して,汎用の深層学習モデルをブラックボックスとして用い,その画像のキャプションとスコアを得た.同時にこれらの形状に対する構造解析により力学的負荷の度合を示すカップ断面内の応力分布を得た.これらの比較より,力学的負荷の偏りが大きく力学的に不合理であると考えられるカップ形状と,偏りが小さく力学的に合理的なカップ形状が,画像のみを参照した深層学習モデルの出力スコアによって,ある程度分類可能であることを示した.課題としては,ディープラーニングシステムが対象画像のどの部分に注目しているのかを明らかにし,そのことを力学的に解釈することが残されている.
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