本研究で当初計画していたのは、成人や大学生らがもつ自閉症スペクトラムの度合いと、情報セキュリティ・情報倫理に関連する能力の関係を、テストやアンケート調査に基づいて明らかにすることであった。具体的には、「自閉症スペクトラム傾向と情報倫理における規範への対応」には正の相関が、「自閉症スペクトラム傾向と、情報セキュリティにおける危機管理能力」には負の相関があるという予想であった。だが、この調査で取り扱う内容がセンシティブであることから、所定の調査がほぼできない状況になってしまった。 そこで、研究目的を部分的に達成する必要があり、情報機器の利用について、「計画力」に注目し、日常生活での計画性を補助するスマートフォンを利用した宿題管理について調査を行った。計画力に関する問題は、特に自閉症スペクトラム傾向が強い人に見られるが、その内容では調査の了承がえられなかったため、一般の高校生を対象とした調査とした。結果として、量的な調査結果とはいえないものの、生徒らの学習にスマートフォンなどのICT機器が効果的に使われており、特に、宿題の管理や視覚障害などの障害に対して効果的であるといえることがわかった。 また、その結果を前提に、情報教育に日頃から関わってきた研究者らや、発達障害に詳しい研究者への研究レビューを行なったところ、流動性知能と結晶性知能の問題が、情報セキュリティ・情報倫理と関わっていること、および、入念に設計されたリスクマネジメントを行えば、自閉症スペクトラムが強い傾向の人でもセキュリティに対応できるという意見を得た。これを、研究全体の成果とする。 なお、本研究が直面するように、今後も、個人の特性・特徴に関する研究を行う上では、研究に関わる人の合意を取ることが非常に困難であることが予想される。これは、研究の目的とは異なるが、明らかになった1つの問題点であると言える。
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