研究課題/領域番号 |
16K12553
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
菱山 玲子 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (70411030)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | メンタルヘルス / IoT / スマート環境 / スマートセンシング / サービスコンピューティング |
研究実績の概要 |
大学等の高等教育機関では,メンタル面の不調やうつ病が原因で「修学上の困難を抱える学生」を把握し,面談を通じて問題内容を把握し必要な指導やアドバイスを行うが,問題が把握された時点では既に,修学上の困難を取り除くことが容易ではないケースも散見される.この問題に対し,本研究はIoT/M2Mサービスとサービスコンピューティング技術を組合せ,学生の日常的な活動空間をモニタリングすることにより問題発生の手がかり情報を獲得し,修学上の困難に陥ることが予測される学生を早期にスクリーニングし,適切な指導,医療的な介入に結びつけることを目的としている.本研究により,学生が修学上の困難に陥る前にその兆候を検知し必要な対応を行うための知見を得る新たな方法と,その検出効果を明らかにする.本年度は,ライフログ取得のためのIoT/M2Mデバイスの設計開発に注力した.汎用性の高いシングルボードでIoT/M2Mデバイスを試作するもので,開発対象としたデバイスの種類は,以下の3種類である. ①学生が生活する居室の照度を計測するデバイス(照度センサ) ②ベッドのマットレスにかかる圧力を計測するデバイス(離床センサ) ③一人暮らしの場合を想定したケースとして,居所(玄関扉)の出入りを計測するデバイス(接触センサ・赤外線センサ) 上記①のセンサで就寝・起床時間を推定し,②のセンサで離床した時間を推定し,③のセンサで居所からの外出を検出する.これにより,就寝・起床,離床,外出といった最低限,かつ,おおまかな活動情報が得られ,夜遅くまでアルバイトを行っている,部屋にはいるが遅くまで起きている(眠れない),朝起きられない,起きているが大学に行かない,といった最低限のライフスタイルに関わる情報を獲得することができる.このセンサ・デバイスの試作版では特に,精度よく情報を取得できるよう,センサの選択,小型化・省電力化に考慮した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
IoTデバイスの分野では急速に技術革新が進展しており,当初の想定以上に小型で省電力なシングルボードやセンサを,安価かつ手軽に選択できる状況となっている.センサ類は一般的なものを利用でき,デバイスの試作は支障なくすすめられた.また,試作デバイスからの取得データは,プライベートクラウド上のサーバへ蓄積するが,商用でプライベートクラウド環境の提供もスタートしており,支障なくプロトタイプとなるシステムを作成できた. IoT/M2Mデバイスによるデータ通信の通信速度は低速,かつ,通信量は少なくて済む一方,多くのセッションを維持する可能性がある.このようなIoTの通信特性を考慮し,IoT向けに最適化されたMVNOサービスのSIM(IoT用に設計開発されたもの)を利用し通信を行うこととした.収集データは個人のライフログ情報であり,セキュアな通信環境を保証する必要がある.このため,データはインターネットを介さずセキュリティの高いMVNOサービスを介してプライベートクラウドへ蓄積する.これにより安価にデータ収集を実現するプラットホーム構築が可能である.一方,MVNOサービスはアクティベートされた状態では利用しなくても少額ながらコストがかかり続けるため,wifi無線モジュールをシングルボード上に実装したものも試作した.こうした試作により,期待されるデータを,概ね期待される精度・コストで,取得できる見通しが立った. なお,MVNOサービスを利用した場合,デバイスは各学生の居室に分散して配置されるため各SIMの状態は遠隔で管理する.すなわち,多数の学生の居住空間に分散配置されたSIMの通信状態の監視や休止・再開等の操作をWeb上から(API経由で)行う.これにより,ユーザの同意状況に応じて速やかなセンシング基盤の管理が行える.学生による利用・設置の簡便性も考慮すると,この方法が推奨されると考える.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,これまで作成した試作版のIoTデバイスを改良し設計仕様を固めたうえで,小ロットで基盤化を行い,実用に耐えうるデバイスとして実装する.これらを試験的にフィールドとなる居室へ配置し,本格的なデータの取得・蓄積を開始する.これにより,実際には多様であることが予想される環境で,精度良くデータを取得するためのノウハウ,問題点を蓄積する. 一方,クラウド環境上の蓄積データに対する分析機能(ルール/解析エンジン)を設計する.仮説モデルとして,修学上の困難が懸念される学生のパタンは経験知として得られているものがあるが,これを蓄積データから把握することが可能かどうかを評価する.基本的な分析手法としては機械学習を想定し,学習ターゲッドは修学上の困難が懸念される学生か否かの二項分類ないし多項分類とし,データ分布計算とモデルトレーニング処理の後,予測パタンを検出し保存する手順とする.加えて,モデルの正確性も評価する.機械学習モデルもプライベートクラウド上にデプロイし,修学上の困難を抱える学生予備軍を的確に予測・抽出するためのパフォーマンス調整を行う. IoTデバイスで用いられるセンサ類,通信モジュールは,急速に技術革新が進展しているため,これまでの試作物を,今後更にニーズに合ったIoTデバイスへと改良できる可能性が高い.被験者からの意見も参考に入れ,特に小型化・小電力化に関しては新たなボードや通信モジュールの採用も視野に入れてすすめる. なお,蓄積されるデータは基本的に,利用者自身によるライフスタイルの自己管理に役立てることができる可能性が高い.そのため,蓄積データの各利用者への公開・フィードバックも検討課題としたい.特に,IoTとスマート端末の連動は相性がよいことから,自律エージェントによるライフスタイルの改善にまつわる指導を,端末へのプッシュ型の通知により実施することも検討する.
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