研究課題
氷コア中に含まれる過去のエアロゾル粒子を申請者が確立した昇華法を用いて抽出し、走査型電子顕微鏡・ラマン分光器を用いてその組成を分析し硫酸塩・硝酸塩を同定した。その後、ナノシムスを用いて硫酸塩・硝酸塩の硫黄・窒素同位体比を分析し、個別粒子の起源を明らかにした。氷コア中の固体微粒子を抽出には、申請者の開発した昇華法を用いた。申請者の開発した昇華法は氷コア中の水溶性塩を抽出する手法であり、-50℃環境で1gの氷を昇華させることで500粒子程度の不揮発性エアロゾル粒子を抽出できる。具体的には、エアーコンプレッサー、エアードライヤーを用いて露点温度の低い乾燥空気を作り出し、乾燥空気をフィルター上の降雪に送り込み、水溶性エアロゾル微粒子が固体で存在する-50℃以下の低温状態で雪や揮発性物質を昇華蒸発させた。走査型電子顕微鏡・ラマン分光器で同定した後にナノシムスで粒子を検出するために、TEM用の金属グリッドに粒子を集めることで、格子のどこに存在するのかを明確化した。南極ドームコアの試料から完新世と最終氷期の試料をグリーンランド南東ドームコアの試料から1970年代の人為起源硫黄排出が多かった時代の試料を昇華し、粒子を同定した。東京大学海洋研究所のナノシムスを用いて、同定した粒子の硫酸塩の硫黄同位体比を分析した。その結果、完新世の硫酸塩の硫黄同位体比は海洋生物起源の硫黄同位体比と誤差の範囲内で一致したが、最終氷期の硫酸塩の硫黄同位体比は海洋生物起源の硫黄同位体比よりも低く、石膏などの大陸起源の硫黄の可能性を示した。
2: おおむね順調に進展している
アイスコアに含まれている過去のエアロゾル粒子の硫酸塩の硫黄同位体比を分析に成功した例は他にはなく、世界初の取り組みとなったため。分析誤差をいかに小さくするかが今後の課題である。
アイスコアに含まれている過去のエアロゾル粒子はマイクロスケールであり、小さいマスの同位体比分析のため、誤差が約10‰と大きくなっている点が課題である。この課題を克服するために事業期間延長をさせていただいて、平成30年度も分析方法の確立に取り組む。分析機器としてはこれ以上の誤差の向上を望めないので、測定粒子数を増やして、統計的に誤差を小さくし、より信頼できるエアロゾルの同位体比からの起源推定をしていく予定である。
分析機器の故障によりマシンタイムの予定が平成30年度となったため、事業期間延長をさせていただいた。
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Journal of Geophysical Research: Atmospheres
巻: 123 ページ: 574-589
http://dx.doi.org/10.1002/2017JD026733
巻: 122 ページ: 10873-10887
http://dx.doi.org/10.1002/2017JD026716