氷コア中に含まれる過去のエアロゾル粒子を代表者が確立した昇華法を用いて抽出し、走査型電子顕微鏡・ラマン分光器を用いて粒子組成を分析し硫酸塩を同定した。その後、ナノシムスを用いて硫酸塩の硫黄同位体比を分析し、個別粒子の起源を明らかにした。走査型電子顕微鏡・ラマン分光器で微粒子を同定した後にナノシムスで粒子を検出するために、TEM用の金属グリッドに粒子を集めることで、格子のどこに存在するのかを明確化した。 南極ドームコアの試料から完新世と最終氷期の試料をグリーンランド南東ドームコアの試料から1970年代の人為起源硫黄排出が多かった時代と近年の硫黄酸化物排出抑制後の試料を昇華し、粒子を同定した。 東京大学海洋研究所のナノシムスを用いて、同定した粒子の硫酸塩の硫黄同位体比を分析した。その結果、完新世の硫酸塩の硫黄同位体比は海洋生物起源の硫黄同位体比と誤差の範囲内で一致したが、最終氷期の硫酸塩の硫黄同位体比は海洋生物起源の硫黄同位体比よりも低く、石膏などの大陸起源の硫黄の可能性を示した。また、グリーンランドの微粒子の硫黄同位体比は、人為起源硫黄酸化物の最盛期と排出抑制期で顕著な違いは見られなかった。 個別微粒子の硫黄同位体比の誤差が10‰と、地球環境の解読には大きすぎ、今後誤差を小さくしていく試みが必要である。また、ナノシムス測定は粒子を削り取りながら分析するため、同試料の複数回の測定で硫黄同位体比に大きな変化が生じてしまった。また、硝酸塩の分析環境構築にはまだ課題が多く残されている。今後の課題は多いが萌芽研究として、アイスコアに含まれる硫酸塩微粒子ごとの硫黄同位体比を世界で初めて分析できる環境を構築したことが大きな成果となった。
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