地球規模の気候変動の解明と予測において、海洋が持つ膨大な熱容量や水循環における役割の重要性から、海洋、特に南極海をはじめとする観測の困難な極域海洋でのモニタリング体制の構築が急務となっている。本研究では、近年急速に発展した漂流型中層ブイの浮力制御技術と衛星通信技術を応用して、氷海域でも運用可能な海洋鉛直プロファイル観測機能と観測結果のリアルタイム送信機能を有する係留型ブイ観測システムの実用化を目的とする。主に沿岸大陸棚域を想定し、氷の存在する極域海洋で大陸棚水深程度までの鉛直プロファイルを取得可能なリアルタイムブイシステムの構築を目指している。これまで、浮力調節型のブイに基づくシステムの構築に成功し、オペレーションが可能な流速範囲についての基礎的な情報等を取得してきた。こうしたシステムの耐流速性能をより高めることが次の段階の目的である。 浮力調整式ブイによる運用環境を調べるための南極ポリニヤ域で約8ヶ月間の観測に成功し、結果の解析を行った。試験海域での水平流速は平均的には10cm/s程度と強くはなかったが、浮上成功率は90%に届かなかった。これにより、実海域での浮上の制限要因は水平流速以外にもあり、オホーツク海と南極海、流氷域とポリニヤ域といった海域・氷状の違いでも条件が異なることが明らかになった。こうした環境面も含め、浮力調整により高流速条件下で浮沈を制御する方式には課題が多いことが判明した。高流速対応のための代替策として、浮力調整式にかえてウィンチ式を試すこととした。ウインチ式ブイの動作試験を行い、前回の試験と同じ南極ポリニヤ域に設置した。一年後に回収して動作を確認し、浮力調整方式との得失を検討する。
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