研究課題/領域番号 |
16K12577
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小畑 元 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (90334309)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | パラジウム / 白金 / 陰イオン交換樹脂 / 沿岸域 / 堆積物 / 海水 |
研究実績の概要 |
平成28年度は海水中の極微量パラジウムの分析法を開発するため、基礎検討を行った。まず、白金と同様に陰イオン交換樹脂カラムに海水を通過させパラジウムを捕集し、溶離後、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)で測定する方法について検討を行った。白金の分析法と同じ方法をパラジウムに適用した場合、回収率は30~40 %程度となった。そこで、様々な濃縮・溶離の件を検討したところ、回収率を78~88 %までに向上させることに成功した。一方、陰イオン交換樹脂カラムから硝酸、過塩素酸などの混合溶液によりパラジウムを溶離した場合、そのブランク値は50 ppt程度となった。陰イオン交換樹脂からのパラジウムの溶出が高いブランク値の主な原因と考えられたため、カラムの洗浄法を検討した。様々な洗浄法を検討した結果、最終的にブランク値を5 ppt程度まで低下させることに成功した。来年度以降は、ICP-MSによる測定において同重体干渉する元素とパラジウムの分離法を検討する。また、海水試料からICP-MS測定用試料への濃縮率についても検討を行い、沿岸海水中の微量のパラジウム測定に適用可能な方法を開発して行く。 一方、これまで、河川、河口域、外洋域において水中の溶存態白金の分布は明らかにされていたが、沿岸域においては十分なデータが得られていなかった。そこで、海水中の極微量の白金の分析法を用いて、日本沿岸域の海水中の白金の分布を明らかにした。ここでは、房総半島、仙台湾の沿岸域における海水中の白金の鉛直分布を示した。沿岸域底層に高濃度の白金が検出されたため、主に沿岸堆積物から溶出した白金が底層水中の濃度を上昇させている可能性がある。沖合域においては、沿岸域からの水平方向の輸送によって白金の鉛直分布が影響を受けていると考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すでに開発している海水中の極微量の白金の分析法をそのまま適用した場合、パラジムの回収率は低く、この条件では、ICP-MSによる同位体希釈法を用いても、測定値の誤差が大きくなるなど様々な問題が考えられた。そこで、溶離条件を検討することにより、パラジウムの回収率を80 %程度までに向上させることができた。陰イオン交換樹脂カラム濃縮法については、今年度、同位体希釈法を適用できるレベルにまで到達したと考えられる。 また、陰イオン交換樹脂カラムに起因するブランク値についても当初は高い値を示していた。しかし、カラムに様々な洗浄法を適用することにより、大幅にブランク値を低減させることに成功した。沿岸水中のパラジウムは高濃度で存在すると予想されており、本年度に開発した方法により十分測定可能なレベルになっていると考えられる。測定の妨害となる元素の分離法については、来年度以降、詳しく検討していく予定である。 一方、これまで十分に解明されていなかった日本沿岸域における海水中の白金の鉛直分布を明らかにし、沿岸堆積物から白金が海水へ溶出する過程を示した。人為起源と考えられる白金が河川や河口域だけでなく、沿岸域の表層堆積物中にも蓄積し、徐々に水圏環境中に溶出されているというプロセスを、これらの結果は示唆している。 本年度は、分析法の開発において予想よりも困難な課題に直面した。しかし、様々な実験条件の検討を行った結果、これらの問題を解決できる目処が立ったと考えられる。また、沿岸域における白金の挙動についても、新しい知見を得ることができた。このような研究の進行状況を鑑みて、総合的にはおおよそ当初の予定通り計画が進んでいると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度、沿岸海水中の微量のパラジムの分析法の開発を行ってきたが、方法を完成させるには至らなかった。次年度には沿岸海水中のパラジウムの分析法を完成させることを目指す。まず、パラジウムの測定にはICP-MSを用いるが、質量分析法であるため、同重体が測定の妨害となる。そこで、過去の研究で報告されているパラジウムの妨害元素が実際にICP-MSによる測定を妨害するかを検討し、どの程度の分離が必要かを明らかにする。その後、パラジウムからの妨害元素の分離法を確立する。陰イオン樹脂カラム濃縮法によって、パラジウムは樹脂上に強く捕集されているため、他の妨害元素と分離することは可能と考えられる。妨害元素を選択的に除去する方法を検討し、パラジウムからの分離を目指す。また、本年度は陰イオン交換樹脂カラムに起因するブランク値を低減させることには成功したが、沿岸海水中のパラジウムを測定するためには、さらに濃縮倍率を上げていく必要がある。そこで、実際の海水を使用して、どの程度の海水サンプルからパラジウムを濃縮できるかという点について検討する。サンプルをカラムに通過させる際の流速や所要時間などについて詳しい実験を行い、実試料に適用可能な分析法の確立を目指して行く。 開発した方法は、比較的パラジウム濃度が高いと考えられる都市域の河川や河口域のサンプルに適用する。同時に水試料中の白金濃度を測定することにより、水中のパラジウム/白金比を明らかにしていく。パラジウム/白金比は、水圏環境中に存在する白金やパラジウムの起源を明らかにして行く上で、有用なトレーサーとなる可能性がある。この可能性についても、次年度から検討を開始していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初は本年度中に外洋域にも適用可能な海水中のパラジウムの分析法の検討を開始する計画を立案し、そのための予算も僅かながら計上していた。しかし、分析法の開発中に低い回収率や高いブランク値など様々な問題が生じ、その解決に時間を費やさざるを得なかった。それでも、本年度は最終的に沿岸海水の測定に目処をつけるまでは研究を進めることができたが、外洋海水の分析法の検討を開始するまでには至らなかった。このため、外洋域にも適用可能な海水中のパラジウムの分析法の開発に必要な経費の一部は、次年度に使用することとした。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は外洋域にも適用可能な海水中のパラジウムの分析法の開発を開始する。この分析法を検討するためには、高い回収率と低いブランク値が得られるような陰イオン交換樹脂カラム濃縮法が必要となる。このために、様々な陰イオン交換樹脂や高純度の強酸が必要となる。次年度使用額については、主にこれらの物品の購入費に充てる予定である。
|