平成30年度は海水中のパラジウムを効率よく分離濃縮する方法の開発を行った。カラム濃縮法において複数の溶離液を組み合わせることにより、海水中のパラジウムの回収率を76 - 91%までに向上することができた。また、沿岸堆積物から白金が海水に放出されるメカニズムを解明するため、堆積物の分別溶出実験を実施した。酢酸可溶態の白金が60%以上含まれる沿岸堆積物も存在したことから、海水に放出されやすい白金が堆積物に存在することが明らかとなった。 補助事業期間全体を通じて、海水中の極微量のパラジウムの分析法の開発を行った。陰イオン交換樹脂によるカラム濃縮法について、カラムの洗浄法およびカラムからの溶離法を改良した。カラムの洗浄液の組成を変化させることにより、数pptレベルまで操作ブランク値を低下させることができた。また、平成30年度の実験によりパラジウムの回収率は大幅に向上した。これらの検討を通じて、沿岸海水に適用できるパラジウムの分析法をほぼ確立することができた。一方、様々な沿岸域における海水中の白金濃度を測定した。東北沿岸域や有明海などにおいては、特に底層水中に高濃度の白金が存在し、その濃度は東京湾におけるこれまでの報告値と同程度であった。これらの高濃度の白金は沿岸堆積物を起源に持つと考えられ、比較的放出されやすい形態の白金が堆積物に存在することも示された。本研究においては、陸上にあった人為起源の白金が化学形態を変化させながら、沿岸域から外洋域に輸送されている過程を明らかにすることができた。
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