研究実績の概要 |
加速器質量分析法による炭素14年代測定法の適用年代域を拡大する1つの方法は、試料に含まれる炭素14を同位体的に濃縮することである。本研究では、従来の提案されている熱拡散同位体法(Kitagawa and van der Plicht,1997, NIM 123, 218-220)の実用化に関わる諸問題を克服するために、圧力変動吸着法(PSA, Pressure Swing absorption method)による同位体濃縮を提案した。今年度は、昨年度作成した2等式小型PSA装置を用い、市販の一酸化炭素を用いた濃縮実験、同位体分別効果について検討を行った。そのため、濃縮率を決定するために、ディアルインレット式質量分析計(VG Optima)による一酸化炭素の酸素・炭素同位体分析法の確立も合わせて行った。実験の結果、一酸化炭素の酸素同位体測定値からもとめた濃縮効率と炭素同位体比から求めた濃縮率が一致しない点、質量依存の同位体分析を仮定して予測される炭素13の濃縮と炭素14濃縮が整合的でない点、濃縮率の再現性がない点などの問題があることが明らかになった。理論的な考察では、一酸化炭素の酸素同位体と炭素同位体の分別効果は一致することが導かれる。この問題に関しては、現在検討中である。実試料の同位体濃縮を行う場合、試料の炭素を一酸化炭素に変換する必要がある。現在、試料を燃焼して、亜鉛を使い二酸化炭素を一酸化炭素に還元している。この還元の過程で、ほぼ100%の還元率を有する処理装置とその運用方法を確立した。2年間の研究期間では、当初予定していた実試料へ圧力変動吸着法による同位体濃縮の応用までいたらなかったが、この方法が、加速器質量分析法による炭素14年代測定法の適用年代域を拡大する1つの方法であることが実証された。
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