大気エアロゾル粒子は人の健康に大きな影響を及ぼしている。その肺への沈着は、肺胞液内で抗酸化物質と反応することで、活性酸素を生成して酸化ストレスを誘発する。しかし、PM2.5がどのようなラジカルを含有し、また液相内でどの種類の活性酸素をどの位の量を引き起こすかは未解明であるために、PM2.5による健康影響は分子レベルで何が起こった結果なのかよく分かっていなかった。本研究では名古屋の都市大気エアロゾル粒子をカスケードインパクターを用いて捕集した。名古屋で捕集したエアロゾル粒子を電子スピン共鳴法を用いて測定した結果、安定的に存在する有機ラジカルの定量に成功した。この観測では、オゾンや二酸化窒素などの大気汚染ガスも測定し、オゾンとラジカルの逆相関が観測された。この測定には、スピンカウンティング法を用いたが、これ手法を効率的に進めるために、データ解析ソフトウェアを開発した。同時に、活性酸素(ヒドロキシルラジカル、スーパーオキシド、有機ラジカル)の測定のためのスピントラップ法の手法を取り込んだツールを開発した。2017年の夏には和歌山の森林の清浄大気でエアロゾル粒子をカスケードインパクターにより捕集したが、人為起源の安定ラジカルは測定されなかったが、微量ながら活性酸素の測定に成功した。これらの結果は、都市大気エアロゾルの方が清浄大気エアロゾルに比べて、活性酸素生成力が高いことを表しており、大気汚染の健康影響の制御を考える上で参考になる知見である。
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