研究課題/領域番号 |
16K12586
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
武田 重信 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (20334328)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 海洋生態 / 物質循環 / 微量金属 / 窒素 / 植物プランクトン |
研究実績の概要 |
7月に実施された研究船「新青丸」航海に参加し、小笠原父島東方の西部北太平洋亜熱帯海域において、亜表層クロロフィル極大層を中心とする深度60~160mの範囲で、24層の高分解能の鉛直採水と船上培養実験を実施した。亜表層クロロフィル極大は、塩分躍層ならびに硝酸塩が検出され始める深度に対応する深度115m付近に出現し、主に真核藻類とProchlorococcusによって構成されていた。亜硝酸塩濃度は、亜表層クロロフィル極大以深で顕著に増加し、128mで極大を示した。 亜表層クロロフィル極大層下部のプランクトン群集に鉄を添加したところ、硝酸塩ならびに亜硝酸塩を利用した植物プランクトンの増殖が確認された。この結果は、鉄欠乏により抑制されていた細胞内での亜硝酸塩からアンモニウム塩の還元プロセスが、鉄供給により駆動されるようになったことを意味しており、鉄欠乏が植物プランクトンからの亜硝酸塩放出の主な要因となっている可能性が高まった。鉄有機配位子(シデロフォア)の添加による影響は不明瞭であったことから、鉄欠乏下にあった現場のプランクトン群集は有機錯体鉄の利用能を高めている可能性が示唆された。 亜表層クロロフィル極大層付近の微生物細胞をろ過捕集してゲノムDNAを抽出し、細菌の16SrRNA遺伝子の配列解読を行ったところ、α-Proteobacteriaが最も優占し、ほとんどがPelagibacterとして知られる海洋に広く分布する従属栄養細菌によって占められていること、このグループの出現状況に関して深度方向の変化はみられないことが明らかになった。一方、アンモニア酸化細菌を含むβプロテオバクテリアの存在割合は0.1%以下と低く、アンモニア酸化古細菌を含むMarine Group 1 (Thaumarchaeota門)は、亜表層クロロフィル極大層の上層に僅かに認められたのみであった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
7月に実施された研究船「新青丸」航海において、西部北太平洋亜熱帯海域で集中観測を行い、微量金属分布と微生物群集との対応関係を解析するための試料を計画通り採取することができた。また同航海において、予備検討のための船上培養実験を実施することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成28年度に採取した微量金属や窒素同位体取り込み等の試料の分析を完了させて、微量金属及び栄養塩の分布と微生物群集との対応関係の解析を進める。 平成29年9~10月の研究船「白鳳丸」航海に参加して、北太平洋亜熱帯の東西の測点で、鉄など微量金属の有無による植物プランクトンからの亜硝酸放出の変化を検証するための船上培養実験を行うとともに、亜表層クロロフィル極大層を中心とする高分解能の鉛直採水を実施し、作業仮説の妥当性を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究成果について学会発表を行うための旅費としての使用を予定していたが、遺伝子解析データの取得に予想より時間を要したため、全体としての結果の整理が間に合わず、学会発表を次年度に延期したため。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度の日本海洋学会秋季大会(仙台市)で研究成果を発表するための旅費の一部として使用する計画である。
|