研究課題
本研究では、「CO2施肥効果」、即ち大気CO2濃度上昇による光合成速度の増加や蒸散速度の低下量を、大量の地上観測データで植物生理モデルを最適化することで定量化する新しい手法を提案する。アジア域に展開されるモニタリングネットワークで観測されたCO2・H2O交換量のデータと開発した手法を用いて、アジア域の様々な生態系における植物生理パラメタの決定、CO2施肥効果の算定とCO2施肥効果をモニタリングできる数値計算システムを開発する。アジア域の60サイトで測定された渦相関法によるCO2フラックスを統一した解析法でデータを処理し、群落光合成速度のデータを整備した。光合成速度と蒸発散速度を入力とすることで群落スケールでの植物生理を逆推定するためのモデルを開発した。既に開発されていたビッグリーフモデルに群落放射伝達モデル、窒素分配モデルを追加し、群落構造が複雑な植生に対してもモデルが適用可能となるようにモデルを改良・調整した。整備した60サイトの群落光合成速度に対して、開発したモデルにより植物生理特性を逆推定し、最大カルボキシル化速度などの時系列データを抽出した。逆推定された植物生理情報と開発したモデルを用いて、大気CO2濃度の上昇に伴う群落光合成速度の変化量が0.134~0.155% ppm-1であると推定した。一方、気孔コンダクタンスについては大気CO2濃度の上昇に伴い0.044~0.068% ppm-1で低下していると見積もられた。モデルで得られた植物生理特性を検証するために、開放型のリーフチャンバーを自作して、盛夏期にアラスカの森林植生の植物生理特性やSAPD値、C:N比などのデータを検証データとして出得した。モデルで得られた植物生理特性と観測値は概ね一致する結果となり、モデルによる逆推定は妥当である事が示唆された。
1: 当初の計画以上に進展している
データの整備、モデルの開発、テストサイトでの検証がスムーズに進んでおり、次年度に向けて得られた成果を取りまとめていきたい。
得られた成果の取りまとめ、および、開発したモデルとモデルにより得られた植物生理特性のデータを整備して公開する。衛星データを用いて、逆推定された植物生理特性を広域化する予定である。
前年度はモデルの開発とデータ整備を重点的に実施し、検証データの取得については限られたサイトで実施したので研究費の利用が当初の予定よりも少なくなった。
次年度では、論文公表や学会発表を通した成果の公表のために研究資金を使用するとともに、資金が許す範囲で更なる検証データの収集に努める。
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http://atmenv.envi.osakafu-u.ac.jp/staff/ueyama/research_model/