研究課題/領域番号 |
16K12589
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
天川 裕史 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 次世代海洋資源調査技術研究開発プロジェクトチーム, 特任主任技術研究員 (60260519)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 金 / 海水 / キレート樹脂 / ICP質量分析計 |
研究実績の概要 |
本年度は、昨年度に引き続き海洋研究開発機構に設置されている高感度ICP質量分析計Neptune-Plusを用いた金の定量の条件検討を行った。これに加え、Nobiasキレート樹脂による金の分離条件の検討も併せて行った。 Neptune-Plusの測定において、1 ppbの金溶液で得られるビーム強度(Au-197)は、通常のサンプリングコーンとXスキマーを組み合わせ且つ脱溶媒ネブライザーを使用、さらに感度上昇を可能にするモードを使用することで、0.17V程度となった。この条件からさらにサンプリングコーンをジェットコーンに変更することで、ビーム強度は二倍以上の0.37Vとなった。金の定量、特に海水試料を対象とする場合、ビーム強度が十分得ることが出来ないことが予想されるのでジェットコーンを使用するセッティングが必須である。 Nobiasキレート樹脂による金の回収は、金標準溶液を使用した実験による検討を繰り返し行った。その結果、pH6程度に溶液を調製し樹脂に吸着後、アンモニアを使用し溶出した場合、回収率は50から65%であるのに対し、硝酸を使用し溶出した場合回収率は4%程度にとどまった。従って、アンモニアを使用し高pH下で分離を行うことで高い回収率が実現される。ただ、現状は0.1Mアンモニア水溶液を20ml使用し溶出を行っているが、回収率を向上にはより高濃度のアンモニア水溶液を使用する必要があるものと考えられる。 実試料に関しては、拓洋第5海山から回収したマンガン酸化物を吸着させたアクリル樹脂(3試料)を化学処理し、マンガン酸化物を塩酸で溶解し溶液化した。そして、そこに含まれるネオジムの定量を行い同深度の海水のオジム濃度に基づき計算したところ、110Lから1100Lの海水がアクリル樹脂に濃縮されたことが分かった。これは、金の定量には十分な海水量と判断される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ICP質量分析計による金の定量手法の確立(感度の上昇など)と、分析に供する海水試料(海洋に係留し吸着処理したものも含む)及びマンガンクラスト試料の準備、確保は当初の予定通り進んでいる。また、マンガンクラスト試料に関しては、2017年5月に房総沖の拓洋第3海山で観測を行い、これまで継続して観測を行ってきた南鳥島近傍の拓洋第5海山同様に幅広い水深においてマンガンクラストが分布していることを見出した。そして同時に幾つかのサンプルの採取も行っており、その中には拓洋第5海山では採取できなかった極めて厚いもの(約13cm)も含まれる。一方、海水試料からの金の濃縮手法の確立と海洋環境下における金の存在状態の検証に関しては当初の予定より若干立ち後れた状況にあるが、前者に関してはキレート樹脂への金の吸着および溶出条件の検討は順調に進んでおり、今後の研究に支障をきたすものではない。また、後者に関しては当初予定の放射光を使用する方法ではなく、分別溶解を行う方法に切り替えるべく準備を進めている。 以上を総合的に判断すると、研究の進捗状況は概ね順調と判断される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては、本年度に引き続き海水中に溶存している金を分離濃縮する手法の確立を進めていくことと並行し、マンガンクラスト中およびマンガンファイバーに吸着濃縮させた海水中の金の定量を進めていくこととする。マンガンクラスト試料の場合、金と鉄の効率的な分離がNobiasキレート樹脂のみでは容易ではないことが予想されるので、他の樹脂例えば陽イオン交換樹脂を使用するなどの検討も行う。 金の存在状態の解析に関しては、放射光分析に習熟した研究者に協力を仰いでいたがその人物が海外留学中で、データの取得に必要な大型機器(Spring-8など)のマシンタイムの確保が極めて難しい状況にある。従って、それに代わる方策として、マンガンクラスト試料の化学的なリーチングによる金が濃縮する層の検証を通して金の存在状態に関する情報を得ることを試みる。
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