研究実績の概要 |
本年度は、Nobiasキレート樹脂による金の分離精製に最適な条件の検討を行い、それに基づき実際に太平洋産のマンガンノジュール標準試料NODP-1および海水中の金を濃縮したマンガンファイバー試料の定量を四重極型ICP質量分析計(ICP-MS)を用い行った。 Nobiasキレート樹脂による金の分離精製については、昨年試みた溶離手法の検討をさらに進め、試料溶液をpH6に調製しNobiasキレート樹脂に吸着後、最終的に0.1Mアンモニア84mlで回収する方法が最適であること見出した。 上記の分離精製法を異なるリーチングの条件(1M塩酸と2.5M塩酸)で処理したマンガンノジュール標準試料NODP-1に適用し定量を行ったところ、前者は44.8 ppbの値が得られたのに対し、後者では金のビームが得られず定量には至らなかった。前者は太平洋の試料の文献値6 ppb(Hein et al., 2015)に比べ数倍高い値である。一方、より強いリーチング条件下の後者は本来なら前者に比べ高濃度となることが予想されるが、定量値は得られなかった。以上のことから、NODP-1中の金は粉末状の試料中に均一には存在せず、偏在している可能性が示唆された。 マンガンファイバーを用いた海水中の金濃度の定量には北西太平洋に位置する拓洋第5海山の水深1100 mに約270日係留したものを用いた。なお、マンガンファイバーに吸着した海水量の見積もりは、その中に含まれるネオジムの量を測定し、係留した場所の近傍測点の海水のネオジム濃度と比較し行った。その結果、海水の金濃度は11.1 fmol/kgとなり、従来の海水のデータ15 ~ 125 pmol/kgよりやや低いがほぼ同等のオーダーの値となった。樹脂による金の回収率などを考慮すると、この値はこれまでの報告値と大きくは矛盾しないものと考えられる。
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