研究実績の概要 |
本研究は東京電力福島第一原子力発電所事故により広域に飛散した放射性セシウム(135Cs, 137Cs)の挙動調査を行うために,環境中に存在する安定同位体セシウム(133Cs)と同時比較解析するために,多段階分離濃縮機構を有するフローインジェクション-ICP-MS(flow injection-inductively coupled plasma-mass spectrometry) を利用し、迅速に3つのセシウムの同位体、すなわち、133Cs/135Cs/137Cs を同時じ定量する方法の開発に挑戦した。研究は4つの段階に分かれており,①キレート樹脂にて濃縮できる元素の調査,②セシウム測定における同重体干渉を除去する方法の検討,③セシウム濃縮およびセシウム溶出のための最適条件の検討,④133Cs 検量線をもとに135Cs および137Cs を定量する方法と検出下限値の算出方法について実施した。本法によって概算された135Csの検出下限値は0.72 pg/L(放射能としては0.03 Bq/Lにあたる)であり,137Csの検出下限値は,0.74 pg/L(放射能としては2.3 Bq/Lにあたる)であった。以上のことから、汚染水などを調べるために有効な手法として、迅速かつ同時にセシウムの同位体を測定する実験系を構築することができた。また,安定同位体セシウム以外の元素も同時定量できることが確認され,実証試験として河川水中の含有元素を本分析法により定量し良好な結果を得た。本事業においては環境調査までは展開できなかったが,分析システムとしてのベースを確立したものと考えられる。
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