研究課題/領域番号 |
16K12596
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
中田 慎一郎 大阪大学, 医学系研究科, 特命教授 (70548528)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / 相同組換え / DNA修復 / Cas9 |
研究実績の概要 |
標的遺伝子に2カ所のニックを入れるタンデムニック法、そして、標的遺伝子に1カ所のニック、ドナープラスミドにも1カ所のニックを入れる方法(SNGD法)により、効率的かつ正確にゲノム編集が誘導できることを示した。4カ所あるいは17カ所のサイレント変異を入れたドナープラスミドを用いた場合、ゲノム編集効率が著しく低下した。ホモロジーの正確性を要求するのは相同組換え修復の特徴であることから、SNGD法では相同組換え様のDNA修復経路が利用されていることが示されたと考えている。 siRNAを用いて、CtIP、BRCA2、RAD51をノックダウンしたのち、ゲノム編集を実施した。古典的なDSB法では、ノックダウンしたすべての遺伝子に依存したゲノム編集が行われることが明らかとなった。標的遺伝子のみにニックを入れたゲノム編集の場合には、BRCA2、RAD51には依存するものの、CtIPには依存しなかった。このことから、Cas9変異体ニッカーゼによるニック部位では、DNA end resectionがなくても、3′エンドの1本鎖DNA鎖を露出できることが示された。SNGD法ではさらにRAD51への依存性も認められなかった。このことから、ドナープラスミドにニックを入れることで、ゲノム上に発生した1本鎖DNAがドナーにインベイドしなくとも、アニールすることができるようになったと考えている。これらのデータから、SNGD法は未知の非古典的相同組換え修復様のDNA修復機構が用いられていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定では、ニックによるゲノム編集法のDNA修復経路を明らかにする予定であった。研究実績の概要に記載したように、ニック法では、相同組換え修復の後半部分を、SNGD法では未知の非古典的相同組換え修復が機能していることを明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
SNGD法によるゲノム編集で用いられるDNA修復経路は、非古典的相同組換え修復である。この機構の全容解明することも重要ではある。しかしながら、細胞での通常の状態で機能するDNA修復ではないことを鑑みると、機能する遺伝子の探索の波及効果はそれほど大きいとは考えていない。(探索のためには、研究費の範囲内で収まらない大がかりな実験が必要だと予想されるため。)むしろ、ニックを配置部位の違いがゲノム編集効率に与える影響を解析する方が今後のゲノム編集技術の向上に有用であると考え、そのような観点から研究を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画を順調に実施し、Cas9変異体によるニックが起こすDNA 組換えは、古典的な相同組換え修復ではなく、CtIP、RAD51非依存的な新しい相同組換え修復であることを発見した。この新しい修復の分子機構をより精密に明らかにするためには、プラスミドではないオリゴDNAドナーを用いたり、新たなレポーター細胞の利用する研究が有用であるため、期間を延長して研究を実施する必要があるため。
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