研究課題
神経系細胞におけるDNA2本鎖切断(DSB)修復系の特徴を明らかにするために、マウス神経系細胞の発生段階におけるDSB修復能を解析した。胎齢12.5日~16.5日のB6C3F1マウスの脳組織から線条体を分離して、神経幹/前駆細胞(NSPC)を培養した。次にNSPCにX線(1Gy)を照射し、その後の修復過程におけるDNA2本鎖切断(DSB)量をリン酸化ヒストンH2AX(ガンマ-H2AX)フォーカス数で定量化して調べた。X線誘発DSB量は、照射後0.5時間で細胞当たり13個程度まで増加し、その後1~6時間でしだいに減少し、6時間後では3個程度、24時間後は非照射レベルの2個未満になった。このX線誘発DSBの修復動態は、胎齢12.5日、14.5日、及び16.5日で違いはなく、NSPCではDSB修復能に胎齢間による差はないことが分かった。そこで、神経組織における主要なDSB修復系である非相同末端結合(NHEJ)の必須因子であるDNA依存的プロテインキナーゼ(DNA-PK)の活性、並びにその触媒サブユニット(DNA-PKcs)の遺伝子発現とタンパク質発現を、胎齢10.5日、12.5日、14.5日、16.5日、17.5日のB6C3F1マウス脳組織で調べた。その結果、DNA-PKcs遺伝子の発現は5種の胎齢間で全く差が見られなかったのに対し、タンパク質発現は、胎齢12.5日で、10.5日に比べて約2.5倍に増加し、その後胎齢が進むにつれて低下し、17.5日で10.5日と同レベルに戻った。一方、DNA-PK活性は、タンパク質発現と同様に10.5日に比べて12.5日で増加し、そのまま17.5日まで高い活性をほぼ保持していた。胎齢12.5日はニューロン発生が盛んになる時期と重なることから、本研究の結果は、神経系細胞の発生期にDNA-PKが重要な役割を果たしている可能性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度の研究推進計画では、神経系細胞におけるDNA2本鎖切断(DSB)修復系の特徴を明らかにするために、1)神経系細胞の発生段階におけるDSB修復能の解析、2)神経系細胞の発生段階におけるDNA依存的プロテインキナーゼ(DNA-PK)活性の測定、及び3)アミロイドベータによるDSB修復阻害とその阻害作用によるDSB蓄積の関係解析、以上の3項目について実施する予定であった。このうち、3)のアミロイドベータによるDSB修復阻害に係る解析については、計画通りに進めることができなかった。その主な理由は、1)と2)の実験系確立に予定以上の労力を要したために時間に余裕がなくなったことによる。一方、神経系細胞の発生段階におけるDSB修復能の解析では、胎齢12.5日、14.5日、16.5日のB6C3F1マウスの神経組織におけるDSB修復能について、ほぼ計画通りに解析できた。また、神経系細胞の発生段階におけるDNA-PKの解析では、胎齢10.5日、12.5日、14.5日、16.5日、17.5日のB6C3F1マウスの神経組織におけるDNA-PKcsの遺伝子発現量、タンパク質発現量、及びDNA-PK活性について、ほぼ計画通りに解析できた。以上から、全体としてはおおむね順調に進展していると評価した。
平成29年度は、アミロイドベータの蓄積が、ニューロンにおけるDSB修復能にどのような影響を及ぼすのかを明らかにするために、以下の項目について研究を進める。1)アミロイドベータが、DNA依存的プロテインキナーゼ(DNA-PK)活性に及ぼす影響を調べる。ニューロン培地へのアミロイドベータの添加により、ニューロンにDSBが蓄積することをリン酸化ヒストンH2AX(ガンマ-H2AX)、あるいは53BP1フォーカスを定量して確認し、その原因がDNA-PK活性の抑制にある可能性について明らかにする。2)DSB修復に関わる因子として、DNA-PKに加えてBRCA1タンパク質に着目し、アミロイドベータ蓄積が、BRCA1発現に及ぼす影響について明らかにする。3)ニューロンがアミロイドベータ作用によるDSB蓄積によって細胞周期に再突入する可能性について明らかにする。
DNA依存的プロテインキナーゼ活性の測定実験系の確立に当初の予定以上の労力を要したために、平成28年度中に十分なデータを蓄積できないことが判明した。そこで、経費の一部を次年度に残して、次年度に十分なデータを蓄積する方針とした。
平成28年度に確立した測定実験系を用いて、平成29年度に十分なデータを集積する。
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Angew. Chem. Int. Ed.
巻: 55 ページ: 10612-10615
10.1002/anie.201603230
http://chokai.riast.osakafu-u.ac.jp/~housya6/graduate.html