研究課題
正確なDNA複製・遺伝及びゲノム安定性の維持は真核生物におけるに最も重要な生命現象の一つである。DNA複製のエラーは時間とともに増幅・蓄積し、ゲノム不安定性の要因となりがんや老化を誘発する。DNA損傷応答を最上流で制御するAtaxia telangiectasia and Rad3 related (ATR) はHUやUVなどの外的DNA複製ストレスによって生ずる一本鎖DNA (ssDNA)の露出によって活性化し、細胞周期を停止させ、新たなorigin firing を阻害・複製フォークを安定化する事により細胞の生存を維持する。マウスにおいてATR欠損は胎生致死であることやATR選択的阻害剤は急激なssDNA露出を誘発しreplication catastropheによる細胞死を誘導することからATRは外的損傷のない状況下においてもDNA複製に必須であると考えられている。また酵母における解析から、ATR(Mec1)基質のDNA複製に関わる機能が示唆された。しかし、DNA複製、および内因性DNA複製ストレス応答に関わる具体的なATRの機能はほとんど説明されていない。今年度はDNA複製に伴うATR特異的リン酸化基質同定のためATPアナログに感受性のAS-ATRを作成し、in vitro ATR活性化、リン酸化基質精製、及び質量分析するシステムを構築した。興味深いことにDNA二本鎖切断を模倣した合成DNA(ssDNA/dsDNA)によって誘導されるATR依存的なpRPA32 Ser33と比べるとその程度は弱いものの、ssDNAをテンプレートとする複製に伴うATR活性化によるRPA32 Ser33のリン酸化を認めた。これらのことは細胞系ではほぼ検出不可能な微弱なATRの活性化をin vitro複製系を用いることによって検出しうることが示唆された。
3: やや遅れている
本年度はATPアナログに感受性のAS-ATR活性化による基質リン酸化システムを確立し、ウエスタンブロット方による多数の基質候補を検出することができた。しかし基質精製における回収率が低く質量分析における同定数はまだ十分ではない。またSV40ゲノムDNA複製の立ち上げに時間を要し、DNA複製およびDNA複製ストレス応答におけるATR基質解析という意味においては十分な結果が得られていない
In vitro DNA複製系を確立し、ATR活性化に伴う基質同定を進める。またDNA複製ストレスを誘発するがん遺伝子(K-ras)を4OHT誘導的に発現する細胞系を構築し、この系を用いて細胞内in vivo DNA複製ストレスの有無(K-ras発現の有無)による、ストレス非存在下DNA複製誘導性リン酸化および内因性DNA複製ストレス誘導性リン酸化群を同定する。これらの結果とin vitro複製系において得られるATR基質とを比較検討し、DNA複製応答性のATR機能解析を進める予定である。
当初in vitro アッセイ系におけるATR活性化、及びそれに伴うATR特異的リン酸化基質の精製後、複数回の質量分析を予定していたが、基質精製時の回収率が低く実際には詳細な条件検討が必要と考えるに至った。検討の結果in vitroアッセイのスケールアップ及び基質精製法の改良が必要となった。これらの事情から質量分析を控えたため支出が減少した。
In vitro系におけるATR特異的基質同定にはスケールアップが必要と判断した。そのためATR精製に用いる免疫沈降用ビーズ、また 基質精製に用いるsulfolink ビーズなどの実験消耗品を購入し精製した基質の質量分析解析を進めATR特異的基質同定を進める。同時にin vivoにおける核内基質リン酸化プロテオミクスを進める。同定される基質の機能を解析するため、リン酸化抗体を作成、ATR特異的基質リン酸化部位に変異を導入し、変異基質の細胞発現系を作成し、計画した実験を遂行する。
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Oncotarget.
巻: 8 ページ: 12941-12952
doi: 10.18632/oncotarget.14652