研究課題/領域番号 |
16K12621
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
野村 俊之 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00285305)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 原子間力顕微鏡 / 細胞 / ナノ粒子 / 相互作用 |
研究実績の概要 |
微生物に働く相互作用力を正確に理解することは、細胞が関係する種々の分野において非常に重要な課題である。しかし、生物に由来した相互作用は極めて複雑なため、その理論は未だ確立されていない。本研究では、物質間に働く相互作用を直接測定できる原子間力顕微鏡AFMを用いて、生きた細胞に働く相互作用力を直接測定する手法の開発を目的とする。平成28年度の研究では、1)シングルセルプローブにおける細胞の固定要因の定量的評価、2)作製したシングルセルプローブを用いた細菌-基板間と細菌-細菌間に働く付着力の直接測定、について主に検討を行い、以下の結論を得た。 1)AFMプローブ、分散媒、基板について種々の組み合わせでセルプローブの作製を試みた。その結果、AFMプローブはポリドーパミン修飾したコロイドプローブ、分散媒は低イオン強度の電解質水溶液、基板は負帯電ガラスの組み合わせにおいて、乳酸菌1個が生きたまま固定されたセルプローブの作製に成功した。次に、コロイドプローブへの細菌の固定要因を熱力学とDLVO理論から検証した結果、(細菌-コロイドプローブ間の付着力)>(細菌-基板間の付着力)の関係を満たせば、セルプローブを作製できることを定量的に明らかにした。 2)作製したセルプローブを用いて細菌1個に働く付着力を測定した結果、細菌-細菌間の付着力は細菌-負帯電ガラス間と比べて非常に小さく、接触圧が増加してもほとんど変化しないことが分かった。これは、ガラスと比べて細菌が柔らかいため、表面間距離が縮まりにくいことと、細菌周りの高分子鎖による立体斥力が原因であると推察される。これらの結果は、細菌のガラスへの付着率および細菌の自己凝集率の傾向とよく一致しており、その妥当性が実証された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞1個を生きたまま固定したセルプローブの作製に改めて成功し、その固定要因について定量的に明らかにした。また、作製したセルプローブを用いて直接測定した相互作用力は、細胞の付着特性とよく一致することを実証した。以上より、本研究は、おおむね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は以下の通りである。 1)シングルナノプローブの作製:カンチレバー先端に極性の異なる溶媒に分散したナノ粒子懸濁液を滴下し、真空脱気することで溶媒を蒸発させる。このとき、溶媒の蒸発速度と懸濁液濃度を主に検討する。 2)シングルナノプローブを用いた細胞-ナノ粒子間の相互作用力の直接測定:作製したシングルナノプローブを用いて、種々の細胞-ナノ粒子間の相互作用力を直接測定する。また、得られた付着力分布と熱力学的物性の相関関係を検討する。 3)シングルセルプローブを用いて、細胞-細胞間に働く相互作用を直接測定することで、バイオフィルムの形成メカニズムの解明を試みる。
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