微生物に働く相互作用力を正確に理解することは、細胞が関係する種々の分野において非常に重要な課題である。しかし、生物に由来した相互作用は極めて複雑なため、その理論は未だ確立されていない。本研究では、物質間に働く相互作用を直接測定できる原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、生きた細胞に働く相互作用力を直接測定する手法の開発を試みた。 平成29年度の研究では、AFMカンチレバーのチップ先端にナノ粒子を固定したシングルナノプローブの作製と、それを用いた細胞-ナノ粒子間に働く相互作用力の直接測定を行った。チップ先端に固定するモデルナノ粒子として、公称径100 nmのカルボキシル修飾したポリスチレン(PSL)粒子とアミノ基修飾したPSL粒子を用い、純水もしくはエタノールに分散させてから用いた。カンチレバーは、そのままのものと、プラズマ処理で親水化したものを用いて、ナノプローブの作製を試みた。接触角の実測値より表面張力を推算し、ナノ粒子がチップ先端に付着したときの自由エネルギー変化の計算値が負になる組み合わせであれば、チップ先端にナノ粒子が固定されることが分かった。また、ナノ粒子分散液を蒸発させるときの速度による影響は見られなかったが、チップ先端は固定前に粒子径に応じて平坦化すると効果的であった。作製したナノプローブを用いて、酵母1細胞とアミノ基修飾したPSLナノ粒子の間に働く相互作用力を直接測定した。その結果、付着力の中位値は、イオン強度の低い5 mM NaCl水溶液と5%グルコース水溶液中ではそれぞれ400 pNと310 pNであったのに対して、イオン強度の高い生理食塩水中では54 pNと約一桁小さくなることが分かった。また、相互作用力の測定結果は、ナノ粒子の動的挙動(分散、付着、取込)とよく相関しており、作製したナノプローブの妥当性が実証された。
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