研究課題/領域番号 |
16K12623
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研究機関 | 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
馬場 祐治 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 福島研究開発部門 福島事業管理部, 嘱託 (90360403)
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研究分担者 |
下山 巌 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 物質科学研究センター, 研究主幹 (10425572)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 表面電離 / セシウム / 吸着 / 脱離 / 粘土鉱物 |
研究実績の概要 |
本研究は、表面電離現象を利用してCs化合物およびCsを吸着させた粘土鉱物からCsを正イオンとして選択的に脱離させることに挑戦し、これにより福島第一原子力発電所の事故により粘土鉱物などに吸着した放射性Csを効率的かつ選択的に脱離させる方法の開発を目指して実施している。初年度である平成28年度は、Csの脱離装置の設計・製作を行うとともに、塩化セシウム(CsCl)を試料とし、表面電離現象およびそのメカニズムについて詳細に検討した。成果は以下のとおりである。 まず、CsClを加熱したときのCsの脱離について検討した。CsClを真空中で等速昇温し、中性Csの脱離強度の温度依存性(昇温脱離スペクトル)を測定したところ、摂氏400度付近から脱離が始まり、650度付近にピークが認められた。このピーク温度は、CsClの融点(645度)に近いことから、CsClの融解、蒸発によるもとと考えられる。一方、Cs+イオンの脱離はほとんど認められなかった。次に摂氏460度において、CsClを入れたルツボに正電位をかけCs+イオンの脱離強度を測定したところ、ルツボ電位が+50 VくらいからCs+イオンの脱離が観測され、+300 V付近で脱離強度が飽和した。このことから、ルツボに正電位を印加することにより表面電離の割合が増加することが明らかとなった。また、ルツボに+100 V以上の電位をかけた場合、脱離するCs+イオンと中性Csの比(Cs+/Cs)は摂氏410度付近で最大となった。これはCsCl粒子の表面が融解することにより、表面の仕事関数が見かけ上大きくなり、表面電離によりCs+イオンとして脱離する割合が減少するためと考えられる。 以上の結果から、試料に正電位を印加して加熱することにより、CsClの融点より240度低い410度という低温でCsをCs+として脱離させることができることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では、初年度の平成28年度において下記の2点を実施する計画であった。 1)Cs脱離装置の設計・製作 2)Csの標準試料(CsClなど)について脱離に関する基礎データの取得。 1) に関しては、既存の真空加熱装置を改造し、試料電位の印加や試料温度測定ができるようにした。この真空加熱装置と四重極質量分析計を既存の真空容器に取り付け、CsClを加熱した時に脱離する中性Cs及びCs+イオン(質量数:133)が測定できることを確認した。以上のことから、Cs脱離装置の設計・製作は計画通り達成することができた。2) に関しては、CsClを試料とし、真空加熱による中性CsおよびCs+イオンの脱離について検討するとともに、試料に正電位を印加することにより表面電離の割合が増加し、Cs+イオンの強度が増大することを見出した。また、ルツボに+100 V以上の電位をかけた場合、脱離するCs+イオンと中性Csの比(Cs+/Cs)は摂氏410度付近で最大となることを見出し、そのメカニズムを明らかにした。以上の結果から、試料に正電位を印加することにより、410度という比較的低温でCsをCs+として脱離させることができることを明らかにした。 以上、1)、2)の進展状況を勘案し、本研究は当初計画どおり、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度も当初計画に沿って以下の研究を進める。 ①Csを吸着させた粘土鉱物の表面電離に関する検討:福島県に多い代表的な粘土鉱物であるバーミキュライト(福島県小野町から採取)にCsを吸着させた試料について、前年度と同様の表面電離に関する実験を行う。具体的には、まず試料を真空中で等速昇温し中性CsとCs+の脱離強度を測定する。次に、試料に正電位を印加した時の中性CsとCs+の脱離強度を種々の温度において測定する。これにより、表面電離現象を利用して粘土鉱物からCsをCs+イオンとして脱離させるための最適条件を見出す。 ②脱離したCsの定量:上記の実験において、脱離したCsの量を測定する。具体的には、加熱装置上方にCs捕集用の金属板を置き、種々の条件において金属板表面に堆積したCsの量を、X線光電子分光法、蛍光X線分析法により定量する。これにより、できるだけ低温でCsを多く脱離させることができる条件について検討する。 以上の結果から、表面電離現象を利用した粘土鉱物からのCsの選択的脱離と捕集に関する最適条件を見出し、これにより提案した手法の有用性を実験的に実証したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本実験の一部は、茨城県つくば市にある高エネルギー加速器研究機構放射光科学研究施設(KEK-PF)で行うことを計画していて、そのための旅費(茨城県東海村―つくば市、福島県福島市―つくば市)を計上していた。この旅費に関しては、KEK-PFの放射光共同利用実験を申請し、それが認められたのでKEK-PFから支給される共同利用実験旅費を充てた。以上の理由により、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度は、1) Csを吸着させた粘土鉱物の表面電離に関する検討、および2) 脱離したCsの定量分析および状態分析に関する実験を行う。予算は主にこれらの実験を行うための真空容器の部品(ガスケット、フランジなど)の購入、加熱装置の整備、および吸着実験用セシウム化合物試料の購入に充てる。また旅費は、実験に係る旅費(福島県いわき市―茨城県東海村)および学会(日本放射光学会など)における成果発表のための出張旅費に充てる。
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