1) 有明海から分離したシュードアルテロモナス属細菌A25株をノリ養殖に被害を及ぼす珪藻の1種であるスケレトネマ・マリノイ-ドウルニイ(旧名 スケルトネマ・コスタツム)NIES-324株の無菌培養液に接種すると、珪藻細胞が細胞膜の剥離、核DNAの分解、細胞の収縮という高等植物の細胞のプログラム細胞死と類似した過程を経て死滅することを明らかにした。 2) A25株が産生する珪藻のプログラム細胞死を誘導する物質についてはプロテアーゼ活性をターゲットとして分離精製を試みたが、予備的に実施した各種カラムクロマトグラフィーにおいてプロテアーゼ活性が複数のピークに別れたため、精製を断念せざるをえなかった。一方、最終年度にA25株の細胞から抽出した粗酵素液を用いて各種のプロテアーゼ阻害剤の効果を検討したところ、用いた全ての阻害剤は粗酵素液の珪藻細胞の死滅を誘導する活性を阻害せず、分離精製の目的物質はプロテアーゼではない可能性も考えられた。今後分離精製を進めて行く際には、珪藻の生細胞を用いたバイオアッセイにより活性測定を行っていく必要があると考えられる。 3) 最終年度には細菌を粒状の高分子ゲル中に包み込んだいわゆる包括固定化担体に着目して検討を行った結果、グルコマンナン等の増粘多糖類はゲル中にA25株を生きたまま高密度で固定化することができ、このA25株固定化担体を珪藻の培養液に添加することで、珪藻細胞を前述の過程を経て死滅させることが可能であることを明らかにした。細菌を生物農薬的に使用して「環境にやさしい」赤潮対策を実現するためには開放系である海洋において細菌を高密度に維持する手法の開発が不可欠であったが、A25株固定化担体は珪藻赤潮が頻発するノリ養殖海域において局所的にA25株を高密度に保つことを可能にするとともに、A25株を海域へ供給するシードとしても作用することが期待できる。
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