研究実績の概要 |
平成30年度は課題となっていたヨウ素(I)を含め、(1)表面形態・構造(栄養繁殖器官の有無)の異なるウメノキゴケ類2種間(遺伝的に近縁で二次代謝物が同一)のセシウム(Cs), ストロンチウム(Sr), Iの濃度比較、(2)生理的特徴(二次代謝物の種類)の異なる地衣類種および(1)の種を合わせた計3種間における元素濃度比較(種間差)、(3)上記(1)(2)で対象とした地衣類に含まれる主要二次代謝物とCsや他アルカリ金属との結合安定性評価、(4)実環境下における地衣類中の放射性Csの不均一分布の要因評価、について取り組んだ。 (1)および(2)については、地衣類中の各元素濃度を調べるためICP-AESおよびICP-MSを用いた。(1)の2種において、それぞれ栄養繁殖器官の殆ど無い部位、多い部位を断片化し、Cs, Srの濃度を比較した結果、2種ともにそれぞれ栄養繁殖器官の有無による有意差が無いことを見出した。(1)(2)の計3種間では、Cs, Srの濃度差が見られなかった一方で、(1)の2種間においてI濃度の有意差(P<0.05)を見出したことから、近縁種であってもIの取り込み機構が異なる可能性が示唆された。(3)では、二次代謝物4種について、Csを含むアルカリ金属(LiからCsまで)との結合安定性を第一原理計算により評価した結果、突出してアルカリ金属との錯体安定性を有する二次代謝物1種を見出した。(4)では、福島第一原子力発電所近傍において採取した地衣類に含まれる粒子状物質を電子顕微鏡等で分析した結果、Cs含有量の高い粒子が含まれることを見出した。このことから、実環境下での地衣類中のCsの不均一分布の一要因として、このようなCs含有量の高い粒子の存在が挙げられることが示された。
|