研究課題/領域番号 |
16K12630
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
松野 泰也 千葉大学, 大学院工学研究科, 教授 (50358032)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 大気圧走査電子顕微鏡 / ASEM / 有機王水 / 液相還元法 / 貴金属 / コンペイトウ状 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、有機王水を用いた溶解と水溶液等の添加による液相還元法により貴金属のナノ・マイクロ粒子を製造することを目的とする。 平成28年度は、有機王水を利用した溶解と液相還元法により、ナノ・マイクロ粒子の生成が既に確認できているAuに関して、1) 溶解したAuの還元条件の違いによる析出物の形状の違いの定量化とマッピング、2) 大気圧走査電子顕微鏡(ASEM)を利用したその場観察による粒子生成・成長のメカニズムの解析に取り組んだ。 1)に関しては、塩化銅を溶解した一定量のDMSO溶液にAuを溶解させ、それに様々な塩素イオン濃度の塩酸水溶液を添加することによりAuを還元させた。そして、生成した析出物をろ過、乾燥後、SEM-EDSにより形状観察した。そこでは、DMSO溶液中の金濃度と、添加する塩酸水溶液の塩素濃度の違いにより、粒子がコンペイトウ状になる領域と球状になる領域があることをマッピングすることができた。 2)に関しては、産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門の協力を得て、各種条件において、還元塩酸水溶液の添加直後のAuの核生成から粒成長の様子をASEMによりその場(in-situ)観察することに世界で初めて成功した。Auマイクロ粒子は、液相還元開始してから60秒後には既に生成していることが観測され、概ね30分程度で粒子の生成と粒成長は終了していることが示された。液相中での粒径は概ね1 μm程度で、それ以上大きな粒子は観察されなかった。1)では、球状粒子が生成すると報告していた液相還元領域においても、in-situで観察によりコンペイトウ状に成長していることが分かった。液相にて生成したコンペイトウ状粒子が、その後、ろ過、洗浄、乾燥工程を経た際に球状粒子へと変化したものと考えられる。球状粒子の生成のメカニズムについては、今後の検討課題と認識された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度は、1) 溶解したAuの還元条件の違いによる析出物の形状の違いの定量化とマッピング、2) 大気圧走査電子顕微鏡(ASEM)を利用したその場観察による粒子生成・成長のメカニズムの解析に取り組んだ。2)に関しては世界で初めての試みが成功し、既に論文として発表することができた。 当初は、生成した粒子の形状の違いによる機能性の違いの定量化に関しても行う予定であったが、粒子生成機構が予想とは異なり、球状粒子が生成すると報告していた領域においても、ASEMによるin-situ観察によりコンペイトウ状に成長していることが分かった。それゆえ、その機構の解明を先にしたうえで、機能性の違いの定量化を行うことにした。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度においては、他の貴金属(Ag, Pd)のナノ・マイクロ粒子の製造に取り組み、その機能性の違いを検討する。 有機王水は、塩素や臭素等ハロゲンイオンを含有しているにも関わらず、Agを高速で溶解できる特長を有している。従って、有機王水にてAgを溶解させた後、液相還元法にて析出させ、ナノ・マイクロ粒子の製造が可能と考えられる。但し、塩酸などのハロゲン含有の水溶液を添加したのでは、電位―pH図から全てのpH領域においてハロゲン化銀として析出することが示唆されるので、エタノールやアスコルビン酸などの還元剤を用いて析出させることを試みる。 さらに、Auも含めて生成した粒子の形状の違いによる機能性の違いの定量化に取り組む予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に成果発表等のための海外旅費を計上していたが、発表を平成29年度にするために予算を残した。また、ロータリーエバポレータなどの備品の購入を計画していたが、研究協力者から拝借できたため購入しなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成29年度には、成果発表等のために海外出張を行う予定である。また、各種貴金属試料の購入費や、粒子物性測定のための分析費が多くかかることが予想されている。
|