研究課題/領域番号 |
16K12637
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
山本 玲子 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 上席研究員 (20343882)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生体溶解性 / 繊維材料 / 環境リスク評価 / in vitro評価 / 生体内蓄積性 |
研究実績の概要 |
ナノ粒子やファイバ等による肺毒性が懸念されている。過去の健康被害例から、これらのナノ・マイクロ材料は生体溶解性を有することが望まれる。しかしながら、これらナノ・マイクロ材料の生体内における蓄積性は、特集な吸排気設備を要する動物実験でしか調べることができず、費用や機会、さらには動物愛護の点で問題があった。そこで、本研究では生体内を模擬したin vitro環境におけるナノ・マイクロ材料の生体溶解性評価法の開発を目的とする。 呼気を介して体内に侵入したナノ・マイクロ材料は、まず気道粘膜に吸着し、気道液と接する。そこで、本年度は、気道内環境におけるナノ・マイクロ材料の溶解性評価法の開発を行った。疑似気道液として、ヒト血漿と類似の組成を有する血清添加細胞培養液を用いた。材料の溶解反応には、試験溶液のpHが影響すると考えられる。そこで、気道内と同等のガス環境(16%O2-4%CO2)下にて、溶解試験を実施することとした。また、気道粘膜表面の湿潤状態を考慮して、試験溶液中への浸漬ではなく、滴下により溶解試験を実施した。 市販の生体内溶解性セラミック繊維について、上記条件で溶解試験を実施した結果、試験期間の増加に伴い溶解量が増加することを確認した。また、単位時間当たりの滴下量の増加によって溶解量は増加するが、経過時間の影響の方が大きいことを確認した。滴下量の少ない(すなわち溶解性の低い)条件下での半減期は約56日であった。 市販の生体内溶解性セラミック繊維については、動物試験により肺内滞留性が低いことが確認されており、当該in vitro分解特性評価による生体内溶解性を推定できる可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は免疫細胞を用いた活性化条件の検討および活性酸素の量の測定を第一に予定していたが、実験設備の都合により、疑似体液を用いた溶解試験法の開発を先んじて実施した。これにより、気道内における溶解性評価法はほぼ確立でき、特許申請を検討する運びとなった。 現在、免疫細胞により産生される活性酸素の影響を検討するため、免疫細胞活性化条件の検討に取り掛かったところである。当初の予定と逆転したため、やや遅れていると判断したが、細胞を用いない試験方法は確立されているため、研究期間内に目標は達成可能と考える。
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今後の研究の推進方策 |
肺胞マクロファージとしてU937細胞を用い、活性化条件の検討ならびに活性酸素産生量を測定する。試験条件の確立は、既知の手法(文献)を参考に実施する。確立した条件を用い、肺胞マクロファージがナノ材料の分解に及ぼす影響を明らかにする。特にマクロファージの活性化について、薬剤による活性化だけでなく、ナノ材料そのものによる活性化の有無を確認する。 上記の試験で測定された活性酸素濃度を参考に、H28年度に開発した手法に対し、試験溶液に過酸化水素を添加することにより生体内における分解挙動の推測が可能かどうか、検討する。過酸化水素を選択したのは、試験溶液中で比較的安定に存在するため、汎用試験法としての展開(扱いやすさ)を考慮したためである。過酸化水素添加の影響が確認できない場合は、試験溶液中での活性酸素種の発生法を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
特許出願を検討することになったため、学会発表を次年度以降とした。 実験設備の都合(利用可能なマルチガスCO2インキュベータが限られている)により、免疫細胞を用いた検討を次年度以降としたため、そのために必要な試薬・試作器具および研究補助員の雇用日数が変更になった。
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次年度使用額の使用計画 |
特許出願が終了したため、疑似体液を用いた評価手法について、学会発表・論文発表を実施する(100,000円)。 免疫細胞を用いた検討のため、研究補助員の雇用および検討のための試薬・器具類の購入ならびに実験容器の試作を行う(545,763円)。
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