ナノ・マイクロ材料による肺毒性が懸念されている。過去の健康被害例から、ナノ・マイクロ材料には体内に蓄積しないこと、すなわち生体溶解性が望まれている。しかしながら、現状、ナノ・マイクロ材料の生体内蓄積性は動物実験によってのみ評価可能であり、高額な費用を要すること、そのため評価機会が限られること、さらには動物愛護の観点から問題があった。それゆえ、生体外で簡便に実施可能な評価法の開発が求められている。 ナノ・マイクロ繊維材料が人体により吸入されると、繊維径が大きい場合は気道上の粘膜に吸着し気道上部から排泄されるが、繊維径が小さい場合には、肺胞まで到達する。肺胞ではマクロファージが異物を貪食・分解処理しており、マクロファージにより分解されなかった異物は肺胞内に滞留し、長期間影響を及ぼし続けることになる。そこで、本年度はin vitroにおける肺胞内環境の再現を目指し、マクロファージとの共培養下におけるナノ・マイクロ繊維材料の分解挙動を検討した。 市販の生体内溶解性セラミック繊維を用い、疑似体液中の分解挙動に及ぼすマクロファージの影響を調べたところ、細胞の存在によってセラミック繊維材料の溶解が顕著に抑制されることが確認された。セラミック繊維はマクロファージの増殖を抑制し、活性化を引き起こすが、分泌される活性酸素(過酸化水素)はセラミック繊維の分解挙動に影響を及ぼさないことを確認した。念のため、疑似体液に活性酸素(過酸化水素)を添加して溶解性試験を実施したが、セラミック繊維溶解量の増加は認められなかった。 以上から、セラミック繊維の生体内における分解は主として体液への溶解であり、肺胞マクロファージによる分解促進はほとんどないことが判明した。また、セラミック繊維の生体内溶解性は、昨年度確立した疑似気道液を用いた気道内環境における滴下試験により評価可能であることが示唆された。
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