研究課題/領域番号 |
16K12642
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研究機関 | 京都学園大学 |
研究代表者 |
大西 信弘 京都学園大学, バイオ環境学部, 教授 (80378827)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 水産資源 / 水田生態系 / Channa striata / マングローブ / Lutrogale perspicillata |
研究実績の概要 |
1)ヤンゴン地方域モービータウンシップに重点調査地を設定し定点観測を行った。雨季、ならびに乾季に村落の漁労活動を調査し、水田生態系ではChanna striata、Anabas testudineus、Crarias batracusなどが漁獲対象となっていることが明らかとなった。これら水田生態系の魚類は、雨季には主に水田が漁場となっており、その年生まれの若魚も水田で多数が見られたことから、雨季には水田が生息場所・繁殖場所・仔稚魚や若魚の生育環境を兼ねていると推察された。乾季には、水田は完全に水を失い魚類が生育できる環境ではなくなるが、水田の周辺の水路や池、レンガを作るために掘った穴などに水が残っており、こうした環境が乾季の生息場所であり漁場としても使われていた。日本でも水田生態系の魚類の季節移動の重要性は知られるが、ミャンマーの天水田においても、水田生態系の魚類の生息には、魚類の季節移動に配慮することが水産資源保全には重要ではないかと示唆された。 2)ヤンゴン地方域、イラワジ地方域、タニンダーリ地方域でみられる小規模漁労活動について調査を行った。ヤンゴン地方域、イラワジ地方域では、釣り、投網、せきうけに相当する漁法などが共通で見られた。タニンダーリ地方区では、内水面漁業はあまり盛んでなく、マングローブ域でのアミ漁が盛んに行われていた。 3)ヤンゴン地方域、イラワジ地方域、タニンダーリ地方域でみられる小規模漁労活動の行われている環境の生物相について調査を行った。ヤンゴン地方域では、シロスキハシコウが水田生態系に生息していた。タニンダーリ地方域のマングローブ域では、ビロードカワウソ、コハゲコウなどの生息が確認されたほか、聞き取りによればスナドリネコも生息していることがわかった。水田環境や漁労環境は今なお大型の野生動物にとって重要な生息環境であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1)重点調査地の確立:ヤンゴン北部にあるモービータウンシップで、稲作と漁労活動の盛んな地域を選定して、重点調査村とすることができた。調査村には漁労をなりわいとする住民に聞き取り調査を重ねる中で、サンプリングなどについて協力的な関係を構築することができ、重点調査地を確立することに成功したといえる。また、調査村の水産資源のうち、Channa striata (ライギョの一種)を水田生態系の水産資源を代表ととらえることができることがわかり、本種の生活史を詳細に明らかにすることで水田生態系の魚類の生活史の解明の緒も掴んだと考えている。Channa striata については、季節的な移動や成長パターンなどの生活史に関する情報が集積されつつある。以上のように、重点調査地での調査は順調に進展している。 2)小規模漁労の多様性調査は、特に著しい成果は得られなかった。水田の広がるタニンダーリ地方域では内水面漁労はあまり発達していなかった。タニンダーリ地方域では、今後、アミ漁が盛んなのでアミ漁を行っている小規模漁業についての情報収集を加えていきたい。 3)水田生態系と漁労活動圏の野生動物について:ヤンゴン地方域ではシロスキハシコウの生息が確認された。タニンダーリ地方域では、ビロードカワウソ、コハゲコウ、カニクイザルの生息場所を見出した。また、聞き取り調査ではスナドリネコも分布しているという情報が得られており、調査地を代表するような野生動物の分布についても概要は把握できたものと考えている。 4)昨年度は、ミャンマーの国際会議で2回(うち1回は招聘講演)発表する機会を得た。熱帯農業学会での成果発表を予定していたが、2回の国際会議での発表を持って代替することとした。研究成果の公表についても、目標は達成したと考える。
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今後の研究の推進方策 |
1)重点調査地では、水田の農事歴・漁労活動・漁獲対象種の生活史について雨季・乾季の比較を行い、水田生態系での漁労活動の実態を明らかにして、水産資源利用における漁労活動の重要性を明確化する。そのために、農事歴の調査、漁労活動の調査を継続的に行っていく。また、主要な漁獲対象魚である Channa striata に絞って詳細な生活史の調査を行う。6月から雨季が始まるので、雨季の産卵期の繁殖状況の調査と、乾季から行っている体長組成の調査を組み合わせて、調査村における C. striata の生活史を明らかにし、住民への水田生態系資源の重要性をアピールするシンボルとして活用していきたい。水田生態系の水産資源に関する食文化についても継続的に調査を行う。これらの結果を住民と共有して、住民主体的な農村開発の基礎とするために、本調査で得られた知見を小冊子にして村で配布するとともに、住民参加のワークショップを計画している。 2)昨年度に引き続き、小規模漁労の多様性に関しての調査を行う。 3)ヤンゴン地方域では、水田生態系にシロスキハシコウが見られた。シロスキハシコウの繁殖場所・生息範囲に関する情報収集を行い、基礎的な生態的知見を収集する。タニンダーリ地方域では、村落周辺の漁労活動を行っている範囲のマングローブ域に、ビロードカワウソ、コハゲコウ、スナドリネコが生息している。人間の活動範囲とこれらの野生動物の生息範囲について情報を蓄積し、人間活動との接点を探る。 4)スリランカで開催される国際学会での発表を予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度、後半に京都学園大学が京都市から国際交流を推進する助成金を得ることになった。この国際交流推進事業として3月にミャンマーの教育機関との折衝を行う業務が発生し、予定していた調査が短縮されたため、経費に次年度使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
海外調査にかかる旅費として使用を予定している。
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